2017年9月28日木曜日

中心代謝を理解するために定量データから学べること

中心炭素代謝経路は、糖などの炭素源を酸化的に分解してエネルギーを獲得しつつ、細胞構成要素の生合成前駆体を供給する全生物共通の基幹システムです。経路を構成する代謝物、酵素、遺伝子の有機化学、生化学的、分子生物学的検討は20世紀中にほぼ完了し、教科書レベルの知見となっています。すなわち解糖系10反応のうち不可逆(ΔG’ << 0)なのは、ヘキソキナーゼ(HXK)、ホスホフルクトキナーゼ(PFK)、ピルビン酸キナーゼ反応であり、解糖系代謝フラックスの制御にはPFKが重要な役割を果たしていること、筋肉ではPFKのアロステリック制御や基質サイクルが秒単位での代謝制御を担う点は、生化学のイロハの一つといえるでしょう。また最近になって、インシュリンに対する肝臓細胞の分単位での代謝応答時にPFKのリン酸化による活性調節が起きること、さらに解糖系の反応速度を維持するために、代謝酵素の発現量が高いレベルにあることが明らかにされています。そこから、中心炭素代謝フラックスの調節はアロステリック制御やリン酸化がメインであり、酵素発現量はマイナーな役割しかないというイメージが描かれている?かもしれません。
一方、最近になってがん悪性化や免疫細胞機能分化と、エネルギー代謝すなわち中心炭素代謝フラックスの変化との関連が注目されるようになっています。また、近年活発化している代謝工学分野では、微生物の酵素発現量の改変を通じた、中心炭素代謝フラックスの人為的切り替えを目指している。その理解と応用に必要な代謝調節機構を明らかにするには、定量データをもとにした解析が必要です。そこで現在得られる代謝に関する定量データのいい点悪い点を比較した総説を書きました。この総説のウリは図1です。


  • 培養細胞の比増殖速度の計算法を実例付きで紹介している。
  • 細胞内外の物質収支を推計するためにもっともよい指標となる比グルコース消費速度、比乳酸生産速度の計算法を実例付きで紹介している。

という培養細胞+代謝マニアックな方必見の内容になっておりますのでぜひご参考にしてください。

Fumio Matsuda, Yoshihiro Toya and Hiroshi Shimizu
Learning from quantitative data to understand central carbon metabolism
Biotechnology Advances, in press


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