2022年4月20日水曜日

国道425号全線走破

 国道425号(三重県尾鷲市から和歌山県御坊市まで)は道路改良がすすんでおらず、日本三大酷道の一つに挙げられている。6年くらい前にバイクでツーリングがてら走破を目指して和歌山県側から進んだところ、下北山村の国道169号から、尾鷲に抜ける入り口で「通行止め通り抜け不可」の看板があり、断念。これはワイヤが破断した吊り橋の修理のためだった。その後、国道425号が全線走れるタイミングを、道路情報のページでちょくちょく確認してきたが、通行止めこそが国道425号の特徴というか持ち味の一つであることを思い知らされることとなる。まず、12月から3月末まではあちこちが冬季通行止めになる。さらに、大雨が降ると大体どこかで土砂崩れが起こり、その修復工事が終わる3-4か月後には、また雨が降って別のところが通行止めになったり、トンネルの修繕工事が始まったりして、全線走れるタイミングが2016年から2021年秋までは全くなかったように思う。ところが、2022年の3月に久しぶりに調べてみると、冬季の規制が終わる4月1日に、ついに全線通れるようになることを発見(その前も2021年10月29日から12月までの間も通れたらしい)。1か所時間規制通行止め区間が残るも、日曜日、休日は規制が解除される。

そこで、NC700Xでチャレンジ。走行距離はメーター読みで204.1km。

和歌山県御坊市塩屋交差点 7:35

和歌山ー奈良県境 9:19

備後橋 11:42

奈良ー和歌山県境 12:12

三重県尾鷲市坂場交差点 12:48 

やはり、龍神温泉から和歌山ー奈良県境までの区間が評判通り最も酷道度が高い。冬季の規制解除後道の掃除が行われていないらしく、枝やら小石やこぶし大の石がごろごろ落ちていて、車だとかなり時間がかかると思われる。

また、国道169号から尾鷲に至る区間を初めて走ったが、ダム湖沿いから山奥を抜け、狭いトンネルを超えるとあっという間に尾鷲の街に出る素晴らしいコースだった。

今度またいつ通れなくなるかわからないので、その筋の方は今のうちにぜひ。


2022年4月3日日曜日

調整インフレ政策は今がチャンスでピンチ

日本における調整インフレとは、ポール・クルーグマンが1998年に発表した論文に基づく政策である。リフレとも呼ばれる。第二次安倍政権で黒田日銀総裁体制となった2013年以降はマクロ経済政策の根幹となっている(山形浩生による積極的な翻訳活動が功を奏したのは間違いない)

1998年のクルーグマンの論文の指摘は、マクロ経済学で理論的にその存在が指摘されていた「流動性の罠」に、どうも日本の経済が実際にはまっているのではないかというものであった。不況になると、政策金利を下げる。これで、今、持っているお金を、貯金して金利を得るよりも、投資したほうが儲かる。お金を借りてでも、投資したら儲かる。ようになる。ついでにマネーサプライを増やすことで、借金をして事業を拡大したい人に回る資金を増やす。投資は、建物を建てたり、機械を買ったりするのに消費するので、総需要が増える。総需要が生産能力を超えると、売り手側が有利になって、価格を上げやすくなり、好景気、インフレとなる。

流動性の罠とは、デフレ経済のように、持っているお金の価値がほっておいても上がるような条件下で、金利をセロまで下げても総需要が生産能力を超えない場合に起きる。このような場合、マネーサプライを増やしたとしても、投資を増やす効果は弱くなる。

クルーグマンの論文では、まず流動性の罠が、IS-LM分析とは別のモデルでも起きうることを示しているようである。投資を十分に刺激するのに必要な金利がマイナスになりえることが理論的に示される。

次に、日本が本当に流動性の罠にはまっているのかが吟味される。当時(24年前)はバブル崩壊後の不況が長期化し始めたころで、実証的な証拠はまだ少なかった。しかし、黒田日銀総裁就任後10年近く、マネーサプライを増やしても景気が良くなったとは言えないところみると、日本が流動性の罠にかなり長い間がっちりはまっていることは間違いないのではないだろうか。

その次に短く触れられるのは、流動性の罠にはまった原因である。当時の日本では、不況の原因として不良債権問題とか、構造問題などが取りざたされていたが、クルーグマンはこれらミクロ経済的要因を一蹴し、「人口構成がいちばんの候補」であると指摘している。これもほぼ間違いない。今後人口が減り、消費も減ることが明らかなのに、内需のための生産能力への投資には慎重になるだろう。

つまり、日本では外国に物を売って稼ぐ。あるいは外国から買っていたものを日本で生産することが重要になる。それにはどちらかというと円安が望ましい。しかし、当時は、極端な円高のあとで逆のことが起きていた。また、リーマンショック後は通貨安競争が起きたため、円安にならなかった。

最後に検討されるのは、流動性の罠から抜け出す方法である。そこで出てきたアイデアが、インフレ期待を起こすことである。もし、インフレが将来にわたって起きると予想されるならば、実質的にはマイナス金利となる金利ゼロで貯金するより、投資をしたほうが儲かるため、総需要を刺激することが可能になる。追記」で述べられているインフレ期待とはたとえば、4% のインフレが 15 年続く」という期待を起こすことである。現在の政策では2%のインフレが目標となっている。これを実現するには

1.2% のインフレを実際に起こすために何でもする。

2.2% のインフレが起きた後も、これを長期間続ける。

ことを日銀が約束することになる。通常、中央銀行の役割はインフレが起きないようにすることなので、「これってえらくイカレた無責任な考え」となる。

私が最初にこれを読んだ時の感想は、「じゃ、どうやって% のインフレを起こすの?景気をよくする手段が、好景気の結果起きるインフレってどういうこと?」であった。この点については、クルーグマン自身もあまりはっきり書いていないのであるが、第2次安倍内閣では3本の矢政策の一つとして、異次元の金融緩和が行われた。でもこれが効かないのが流動性の罠なんじゃなかったけ??と思っているうちに、2%のインフレターゲットは達成されることなく、残り2本の矢も中途半端なまま、消費税を上げる逆噴射をしている間に9年近くが経ったのであった。また、この間マネーサプライを増やせるだけ増やしたが、増やした時に起きるはずの円安が起きているのかもはっきりしない。

が、2022年現在、世界経済が混乱し、輸入品の値上がりなどで、% のインフレが本当に起きそうな気配である。おまけに、アメリカが政策金利を上げたので、一気に円安が進んだ。つまり、1が達成され、輸出に向けた投資環境が整いつつある。次にすることは、これが長期間維持されると期待してよいことを示すことである。それには無責任になって見せる必要がある。

日銀は2022年3月17、18日の政策決定会議で金融緩和継続を決めた。さらに、3月28日には、国債の利回り上昇を阻止するため、複数日にまたがって国債を無制限に買い入れる措置をとった。これは、2.を本気ですると無責任になって見せたシグナルであると考えられる。

これに対して「現代ビジネス」では、野口 悠紀雄による「国家は通貨下落で破綻するー日銀の容認で現実化する円暴落の悪夢・中央銀行の最重要責務を放棄している」が出た。指摘はタイトル通り、「よい円安などない。国が破綻するのは通貨安による。中央銀行の最重要責務を放棄したらだめじゃん」という決め打ち系の議論であるが、円安による物価高=>庶民は大変という筋書きは多くの人を不安にさせるだろう。

また「東洋経済オンライン」には小幡 績による、「これまでとまったく違うヤバい円安が起きている デフレマインドに支配されているのは日銀だけ」も出た。「これは、大事件どころか、「大大大事件」である。」とあおりにあおりまくる。小幡氏の議論は、日銀がそうする理由は「政策の一貫性を示すため」であるとまで述べているが、これがリフレ政策の最も重要な点であることの説明はなく、中央銀行が無責任になっていることの批判を行っている。

この2つの記事をみてわかることは、日銀が2.をうまく実施しており「本当に無責任になって見えている」らしいということである。もし調整インフレ理論が正しいのなら、この状況は、失われた20年から脱却する大きなチャンスであるといえるだろう。

さらに、この記事からわかることは、調整インフレ、リフレ政策に対する理解が、論壇?をリードする論者でさえ、進んでいないように見えることである。野口氏は、中央銀行が最重要責務を放棄しているように見える理由を記事の中で述べていない。小幡氏の物価が上がってきたのだから、そして、失業率は低いのだから、異次元の金融緩和は終了する」という記述は、リフレ政策のポイントを踏まえていない。調整インフレ政策下では、2%のインフレが起きるまでは、金融緩和を行い、その後はインフレ率2%を維持するための金融緩和、引き締めが行われるだろう。また、昨今の不安定な世界情勢下では総需要を刺激するためのインフレターゲットが2%よりも高くなっている可能性がある。(さらに、もしこれらの記事が、日銀の政策を実現するためのブラフとして書かれたのであるなら、それはそれで非常に興味深い。)

一方、「本当に無責任になっているように見えている」なら、上記の記事のような批判が起きるのはやむを得ない。リフレ政策とは総需要を増やすためのマクロ経済政策であり、調整期間中には、短期的に庶民を圧迫することになるのは間違いない。しかし、政策そのものへの無理解から、輸出大企業を利するために、年金生活者を犠牲にするとはけしからん」という一般受けしそうなスローガンとして、リフレ政策をやめさせる政治的な圧力や、選挙の争点になったりすると、政策そのものが腰砕けになるかもしれない。ただ、その場合、流動性トラップから抜け出すための、リフレ政策に代わる政策が必要となるが、もちろん2つの記事ではそこまで述べていない。

というわけで、ここしばらくは調整インフレ政策にとっての正念場になると思われる。