2023年11月30日木曜日

医情工連携シンポジウム - バイオDX人材はどこにいる?

松田の関与する大阪大学国際医工情報センターでは、バイオDX人材にむけ

医情工の連携による取り組みを行っています。その一環として下記シンポジウムを

実施します。ぜひ皆様のご参加をお待ちしております。



 ■医情工連携シンポジウム - バイオDX人材はどこにいる?


日時: 12月11日(月)17:00-19:00
場所: 大阪大学 銀杏会館 阪急電鉄・三和銀行ホール
開催形式: 現地開催のみ
懇親会: 19:00より同会館ミネルバにて(参加費無料)
参加登録:https://forms.gle/mcYbzLnmZC3Rcrzj7

主催:大阪大学国際医工情報センター/情報科学研究科
共催:大阪大学先導的学際研究機構DX社会研究部門

趣旨:バイオDX人材へのニーズが社会的に高まっており、医情工の連携による取り組みが求められています。
     そこで、「阪大内において、どのようなニーズがあるのか?」「養成の取り組みがあるのか?」
     「バイオDX人材はどのように養成されたのか?」を俯瞰するシンポジウムを開催します。
演題:
・バイオDX人材とはだれか?なぜいないのか?
     松田 史生(情報科学研究科バイオ情報工学専攻・教授)
・国際医工情報センターの取り組み
     岡山 慶太(国際医工情報センター・講師)
・乳腺内分泌外科医が情報科学研究科で博士になってみた。
     草田 義昭(医学系研究科・乳腺内分泌外科・助教)
・医学系・生命系との共同研究の面白さと難しさ
     瀬尾茂人(情報科学研究科バイオ情報工学専攻・准教授)
・DX人材はどう育ったか
     山岡 悠(情報科学研究科・博士後期課程/株式会社GramEye技術開発部部長)
・学生が医療機器スタートアップを始めるとどうなるのか?
     平岡 悠(株式会社GramEye・代表取締役社長)

2023年8月31日木曜日

 「平治の乱の謎を解く 頼朝が暴いた完全犯罪」(桃崎有一郎、文春新書)を読んだ。

源頼朝は1190年に上洛した時に、摂政の九条兼実と密談を行い、こう言ったらしい。

義朝の逆罪、是れ王命を恐るに依てなり。逆に依て其の身は亡ぶと雖も、彼の忠又た空しからず。「父の義朝は忠義の心で、天皇の命令通り挙兵したが、天皇の裏切りで反逆扱いされ、殺された」

この本の筆者、桃崎有一郎氏はこれを読んで、「ああ、平治の乱とは、そういうことだったのか、、」と、膝ポンというか、目からうろこが落ちるというか、なるほどー、という瞬間を迎えたらしい。これは、ある謎について長年考え抜いた人(=研究者など)に時々訪れる至福の瞬間である。通説でも70%くらいは現象が説明ができなくもないが、いろいろな細部がしっくりとこないことにどうにも引っ掛かってしまい、あーでもない、こーでもない。といろいろ考えていると、ある時突然、その人だけにわかるヒントが開示され、より包括的に現象の説明が可能にある新たな仮説が生まれる。これは、優れた探偵小説にも似ている。警察による事件の筋書きに、どうしても納得できず、あれこれといろんな可能性を調べていくうちに、些細なことから、警察の筋書きが見落としていた真相が見えてくる。というものである。

桃崎有一郎氏はこの楽しさを読者と共有したく、歴史書としては極めて異例な構成を本書に採用した。まず、前半に平治の乱の事実関係を述べ、後半に真犯人を述べる解決編と、新たな仮説から見た平治の乱の再解読が行われる。この内容は例えばWikipediaの「平治の乱」とは全く異なる。私は歴史の専門家ではないので、桃崎説が正しいかはわからないが、その謎解きの過程は、きわめて魅力的で面白い、今年一番の読み物であった。

もともと、一般向けの歴史書には謎解き要素が強い。黒田日出夫氏の「国宝神護寺三像とは何か」(角川選書)や「謎解き洛中洛外図」(岩波親書)は、それぞれ、40代の人が小学生のころ「源頼朝」像と習ったイケメンが実は別人ではないか?上杉本洛中洛外図を書かせたのは誰か?という謎に解決を与えた研究過程が紹介されており、わくわくしながら読んだ。

「平治の乱の謎を解く」はより、大胆に本格ミステリの様式を歴史書に取り入れている点がすごい。しかし、いわゆる史学プロパーの他の研究者はこれをどうとるかが心配である。オカタい人達ではないとよいのであるが。

一方、これを発展させて、歴史を踏まえた本格ミステリの歴史探偵ものも作ってみるというのはどうだろうか。。時間を超えた捜査の後、探偵が時空を超えて、義朝、信西、二条天皇、後白河などの関係者を一か所に集めて、事件を解説し、犯人はあなただ!とやる。あれである。そもそもお話として面白いし、子供は歴史と歴史に興味を持つし、いいことづくめのように思える。

さらに調子に乗って同じ筆者の「「京都」の誕生 武士が造った戦乱の都 (文春新書)」「京都を壊した天皇、護った武士: 「一二〇〇年の都」の謎を解く (NHK出版新書)」を続けて読んだ。旅先でもkindleで本が買えるのは大変助かる。いずれも、摂関期末期から院政期、平氏台頭のあと、鎌倉幕府成立、建武の新制、南北朝時代の間で、検非違使がどういう経緯で来たのか?武士が政権の中心に進出した過程は?といった政治制度やその背後の価値観の変遷を一般向けに分かりやすく説明したもので面白かった。


2023年7月14日金曜日

MassBank入門 BMS2023参加者の皆さん向け


MassBank入門アンケート+練習用スペクトルデータは下記より取得してください。

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScNx6O-Z69WBfcTLWJVVCEGKX3bILK4k0oIPq4Aui0_CWKywA/viewform


スペクトル検索(Peak List)コピペ用1


89.0386 390
89.0880 108
117.0336 289
135.0445 308
145.0289 290
163.0393 999
163.1061 260
181.0501 46


やってみよう

・アミノ酸のMS2スペクトルを比較し共通点がないか探してみる。ヒント:アミノ酸の構造の共通点は?


参考資料






ヤマハ・ホンダMotoGP苦戦

ホンダとヤマハがMotoGPで苦戦している。どちらもエースライダーが機能しなくなったことが原因だろう。ヤマハの開発は、途中2年ほどブランクはあるものの(ドゥカティに行ってた)15年以上バレンティーノ・ロッシが中心だったことは間違いない。また、ロッシの言うことを聞いて開発をしていると、他のライダーにも乗りやすいバイクができていた。2021年末にロッシが引退したのと同じタイミングで、ヤマハのクアタラローがチャンピオンを取れたのはその流れに乗れたからのように思える。実際、ロッシがいなくなったその翌年の2022年も夏までは、ランキングトップを守れていたが、秋ころから明らかに失速したのは、クアタラローを中心にした開発に失敗したということのように思える。

ホンダのエースは、2013年からずーっと文句なしにマルク・マルケスだった。マルケスの言うことを聞いてバイクを作ると、本人以外は全く乗れないすごーく尖ったバイクが出来るようだ。それでも、ホンダはとことんマルケススペシャルなバイクを作ろうとしてきたところを、ダニ・ペドロサがバランスをとってきたように思う。2018年にペドロサが引退した後、おそらくマルケス・スペシャルの度合いが高くなり、2018年アルゼンチンGP(カル・クラッチロー)から2023年のアメリカGP(アレックス・リンス)まで、マルケス以外誰も勝てないバイクとなっていた。2020年にマルケスがケガで欠場し始めると、開発が進まなくなり、2022年になると、エンジニアが作りたいバイクを作るというホンダの悪い癖が出始め、今年のバイクは、マルケスも乗れない(リンスはアメリカGPの時だけ乗れた)バイクができてしまっているようだ。

この開発スタイルが時代に合わなくなってきているのだとすると、仕事の仕方をイチから変えなくてはならないので、復調には時間がかかるのか、、

2023年5月31日水曜日

読書記録

 工作船明石の孤独(林譲治、早川文庫、全4巻)が完結した。林譲治のSF宇宙物は、「ウロボロスの波動」「星系出雲の兵站」「工作船明石の孤独」と20年近くかけて読み進めてきたのだが、「地球外知生体とのファーストコンタクト」「人類社会構造の変化」という2つのモチーフがどんどん変遷、進化するのを楽しんできた時間である。このうち、「ファーストコンタクト」は【ネタばれ削除】ということもあり、まずは行きつくところまで行ったように思う。もう一つの人類社会構造の変化も「工作船明石の孤独」でその勃興・進化過程と成立条件の詳細が解説される。集団に役割分担は存在するが上下関係は存在せず、目的別の集団が自律的に集合解体しつつすごい効率で種々の問題が解決される。という「超」能力主義的な集団であるが、じゃあそういう集団では仕事ができない人は何をしてるのかしら?という基本的な質問への答えは描かれていないので次回作が楽しみである。また、林譲治のSF宇宙物の真骨頂は、話の最後に急にはじけ飛ぶ、時空間スケールの切なさというか感情であろう。「星系出雲の兵站」はやや不完全燃焼だったが、「工作船明石の孤独」は最後グッときました。

DEEP LIFE海底下生命圏 生命存在の限界はどこにあるのか(稲垣史生、ブルーバックス)を読んだ。海底には長い時間をかけて堆積物が蓄積する。掘削して下へ下へ調べたところ、温度120度という物理的な限界になるまで微生物がいた。という最新研究をとても楽しく紹介してもらえる。海底の表層に堆積してから、時間がどんどん立つと手近なエサを全部消費してしまう。また、すごい圧力で砂粒がぎゅうぎゅう詰めで動き回れる隙間もないので堆積物に一緒にトラップされた微生物の中から、深度ごとの温度や利用可能な還元力源に合わせて菌叢を万年単位で変化して生き延びていくというストーリーのように思える。わからないのは、まず、細胞分裂がどのくらいの頻度で起きているのかである。ひょっとしたら数万年とか、下手したら1値億年くらい生きている細胞があってもおかしくない(しかし、どうやったらそれを調べられるのか、、)。そして、細胞分裂の頻度がものすごく低いと、進化もゆっくりとなるため、海低下のいる菌は、基本、最初にトラップされたときにいた菌ということになる。代謝屋的には、放射性元素と水のラジオリシスである。ウラン、トリウム、カリウムの放射性各核種から放射能が出ると、水と反応して水素ができるらしい。その水素をエネルギー源として生きている微生物がいるとのことである。

「戦前」の正体 愛国と神話の日本近現代史 (辻田真佐憲、講談社現代新書)を読んだ。明治維新から大日本帝国崩壊までの過程で、政治的正当性をめぐるイデオロギー戦や国威発揚において、神話がどのように活用されたのかを解説した良書である。たしかに日本書紀、古事記、特に国生み神話部分は、学校で教わってないのでわれわれは何も知らない。なのでまず、何か言いたい右よりの人は、国生み神話からネタを拾って何か言うと、オレ物知りで賢そうなこと言ってる!いう雰囲気を醸すことができて自己陶酔しやすく、耳障りのいいことを聞いたほうも、なにしろ何も知らないので、うわすごい!と飛びついてしまいやすい。一方、左の人は国生み神話というだけで拒絶反応が出てしまう。本書を読むと、まず、国生み神話がどのようなものかがわかる。次に国生み神話が後期水戸学でどのように解釈され、明治維新、教育勅語などなどの正当化に政治的に利用されたのか、さらに下々の民衆もその物語の力に乗っかって軍歌などを大いに作りまくって調子に乗り、最後は、国生み神話由来のストーリーを「日本は神の国」として利用するはずが、「日本は神の国だから世界を治める権利がある」=>「日本は神の国だから世界を治めなくてはならない」=>「それを邪魔するやつは非国民だ」となって、無謀な戦争にいたる。という理路を理解できる。これをしっていると、右よりの人の、国生み神話ネタのお話を、ああまたあれね、と言って聞き流せるし、左の人も未知なゆえの過敏感反応を防げるいわばワクチンとなることが期待される。よくわからなかったのは、今後、日本が自らの存在意義を世界に問うとき、みんながある程度納得できるストーリーを神話を抜きにして作れるのか、神話を入れなくてはならないとしたらどういうのが健全なのかである。結構喫緊の課題のような気がするので、著者の今後の展開に期待。

測りすぎ――なぜパフォーマンス評価は失敗するのか? (ジェリー・Z・ミュラー、松本裕訳、みすず書房)を読んだ。最近の大学では、自分たちがさぼっていないことを外部(納税者のみなさまというか文部科学省)に説明するために、定量的に成果を示すことが求められ、それに応える作業にかなりの手間をかけているように思う。また、大学の社会的役割が多様なため、「全体として」のパフォーマンスを評価するために、さまざまな定量基準で評価され(論文数とか、外部資金獲得額とか、女性教員比率とか)、ランキング化されたりする。しかし、もちろん、評価される側はすぐ傾向と対策を立て「○○の定量基準を上げるためにどうすべきか」という会議に人員とリソースを費やし、多少犠牲をはらってでも数字を達成する、という全体としてのパフォーマンスが若干損なわれるソリューションを採用してしまうことが多い。つまり、なにかのパフォーマンスを評価するために、測定基準を設けることで、パフォーマンスが阻害される事態が起きる。また、自分が構成員から不人気なことを理解しているリーダーは、自分の正当性や実績を認めさせるために、定量基準に基づく評価値の改善(大学ランキングアップ!など)という客観的な指標を使いたいというニーズがあり、その実現のために、予算分配を材料に、現場にプレッシャーを簡単にかけてしまえることから、こういう事態は、良く起きるというより、基本そうなっているといえるだろう。本書はこのような、業績評価など一見、効率的に見える計測がどのようにしてバイアスを生むのかを山盛りの事例で説明してくれる。警察では予算や人事評価の指標となる重犯罪の発生率を減らすために、重犯罪が発生しても軽犯罪として処理する。病院でも予算や人事評価の指標となる退院患者の再入院を減らすために、患者を入院させず、ERに入れたりしているらしい。このように、ほぼすべての指標は、全体のパフォーマンスを上げるために、予算や人事評価の指標として使われるようになると、例外なく全体のパフォーマンスを下げることになることが指摘される。

本書が指摘するパフォーマンス評価はデヴィッド グレーバーのブルシットジョブに近い。一方、デヴィッド グレーバーにおいて、ブルシットジョブは人間を本質的に阻害する撲滅すべき対象であるのに対し、本書はどちらかというと、評価の功罪を明らかにして、うまく運用しようという現実的な路線であるため、若干破壊力は低めである。

【推しの子】1-11巻まで読んだ。てっきり完結していると勘違いして息子さんが買ってきたのを久しぶりのオフの日にまとめ読みして、完結していないことを発見した。大昔、大学のサークルの先輩が漫画(西村しのぶの「サードガール」)を一気読みして、完結していないことが判明して、「ああ時間を無駄にした」とぶちぎれていたのに驚いたのですが、その気持ち、いまならわかります。次、いつ読めるのかわからないので時間を割いたお話にはオチてほしい、のであります。世の忙しいみなさん、【推しの子】は完結していません。もうしばらく待ちましょう。今のところ「異類婚姻譚」と「父殺し」と「ガラスの仮面」の枠組みのお話のようなんですが、よくある父が不在の漫画ではない、母が不在で父も不在だったり、「ウズメノミコト」「【】の意味」あたりでちゃぶ台返しが来るかもしれません。息子さんが12巻以降も買ってくると思いますのでそれをよんだらまた報告します。









2023年5月6日土曜日

The Diplomat

NetflixでThe Diplomat を見た。アメリカの駐英大使が主人公というなかなか珍しい政治ドラマである。このドラマの特長は、極東の一般人にはなかなか感じにくいアメリカとイギリス間の政治的な軋轢が学べる点である。まず、イギリスはアメリカが好き勝手するのは全然うれしく思っていない。「良かれと思い付きでレ〇プに翻弄される」とか、羽振りのいい分家に勝てない本家の悲哀たっぷりである。さらに、アメリカのイギリスに対する不信感も半端ではない。本ドラマの首相のモデルは、おそらくボリス・ジョンソンであるように見えるが、任期がない議院内閣制の首相の立場、というものが、アメリカ人には根本的に想像できないようだ。あと、皇室という要素も一切出てこない。そうなると日本の首相の立場なんて全くわからないだろうということもよくわかる。
また、本ドラマをジェンダー批評的に読むというのは当然あり得るだろうが、当然すぎていまいち面白くなさそうである。シリーズ1はかなり宙ぶらりんで終わったので、はやくシリーズ2を見たい。

2023年4月5日水曜日

スズキ歴史館

 スズキ歴史館に行った。入ってすぐのホールに、無造作にグランプリのチャンピオンマシンがきつきつに並べられていて(2020年のミルのマシンもある。)度肝を抜かれるのであるが。その無造作ぶりがなんというかスズキの社風であるかのように思えた。一方、ガラスケースに仕舞われて大事に販売されていたのは、湯呑であった(観賞用に買いました)。また、展示されているたくさんのバイクの中に、スズキ変態バイクの極みの東京タワーとして知られるGSX400X-IMPULSE(インパルス)があった。写真で見ると確かにすごーくかっこわるいのだが、初めて実際に見た実車は、これはこれでありじゃん、というかっこよさであった。同じことはSV400Sのカウルにも感じる。これも写真で見ると昆虫っぽくて変な感じなのであるが、現物はいやこれはこれでかっこいいんですけど。と思ったものである。鈴菌のせいでいろいろとおかしくなっているだけなのかもしれませんが。


宇宙検閲官仮説

 「宇宙検閲官仮説 「裸の特異点」は隠されるか (ブルーバックス) 」を読んだ。中学生のころ、雑誌ニュートンで盛んに特殊相対性理論(光速に近い条件下での物理)の特集が組まれていたのを読んで、もちろんよくわからないけど、不思議な世界だなーという感想があった。本書はその次の一般相対性理論(重力非常に大きい条件での物理)を構成する微分方程式を解説する。一般相対性理論の微分方程式は特殊な条件下でのみ解が見つかっており、最初に見つかった解からはブラックホールの存在と、「特異点」(微分できない=不連続)の出現が予測された。ただし、「特異点」が事象の地平線の内側にあるので、「特異点」がむき出しにならない。本書は「特異点」が自然に生じることを証明したペンローズの業績を中心に解説していて楽しかった。特異点があると宇宙がなりたたないので、特異点はむきだしにならないように隠されている=検閲官仮説らしい。ということは、特異点はむきだしになると何が起きるのだろうか。ビッグバン?

最近、代謝の動的モデルを構築しているが、代謝の場合、細胞内の栄養素がゼロになる(濃度の時系列曲線が折れ曲がる)ったりして死ぬことは、よく起きる現象であり特異点がむき出しになりすぎて困っている。また、細胞はミトコンドリアが不調で特異点いたって死にそうになると、そうなる前にアポトーシスというメカニズムで、自爆じゃなくて自殺することが知られている。

舞い上がれるが舞い降りれない

朝ドラの「舞い上がれ」をせっせと見てしまった。10年ほど前に読んだ「女の子を殺さないために 解読「濃縮還元100パーセントの恋愛小説」」(川田宇一郎)によると、女の子が上昇してみんなより先に歩くと死ぬ。という日本文学の伝統があるらしい。たしかに、「天気の子」でも陽菜が透明になって空の上に登っていくのは、死を意味していたが、そうはさせまいと帆高がまさしく引きずり下していた。また逆に女の子が下降すると、世界の秘密が解明されるというモチーフもある。「風の谷のナウシカ」でナウシカが流砂で腐海の底に落ちると、腐海の秘密がわかる。「君の名は」で三葉が最後、山から転げ落ちるように下山すると世界の運命がかわる。というように上昇、下降はアニメーションでも繰り返し出てくるモチーフとなっている。さらに「夢分析」(新宮一成)によると「空を飛ぶ夢」をもっとも素直に読むと、言語の獲得体験の再経験であるが、空を飛びすぎる=言葉だけの存在になる=あの世に行くという意味も持ち得るらしい。

「舞い上がれ」で興味深いのは、ヒロインの舞は、空を飛ぶことを夢見て、努力して空を飛び、さらに空を飛んでも死なない。のである。むしろ、舞の困難は「着陸できない」ことである。これは、日本文学の伝統が怨念となって舞を空から降ろすまいとしているようにも思える。たとえば、なにわバードマンでパイロットとなった舞は着陸しないために、必死になってペダルをこぐことを求められる。その後、パイロットになりたい!と、養成学校に行った舞がてこずったのは着陸である。そこで、「天気の子」のように、舞を愛した男たちがなんとか着陸させようとがんばる。部屋に作ったシミュレーターでの練習で、レバーに手を添えて助けてくれた柏木とは恋仲になる。また、その後の飛行実習では強風のため着陸できなくなり、他の空港まで移動する窮地に陥る。そこに飛行機を飛ばして、助けてくれた大河内教官から、世の中のみなさんは男女の機微を読み取って悶絶していた。このように「下降」をする際には男の子が女の子を助けることが多い。

また、最終週で空飛ぶ車のパイロットとして舞は再び空を飛ぶが、やはり着陸シーンは描かれない(着陸しないまま物語が終わる)。これは時系列的に未来のシーンということもあり、ばあばを天国に送り届ける冥界のパイロットの幻のシーンである、ともいえるかもしれない。

さらに興味深いのは、幼馴染の貴司君である。貴司君は下降を好む上昇できない男の子でありつつ、短歌という「言葉」得ることで社会的に上昇したりする。しかし、言葉をみつけるまでには「海の底に潜らなくてはならない」という下降を経る必要がある、かつての穴に落ちる物語の主人公のタイプの男の子である。「舞い上がれ」では、この上昇する女の子が、下降する男の子と結ばれる物語を作るという課題にチャレンジしたようであるが、舞が貴司君と結婚した理由は、視聴者にはまったく理解ができなかったと思える。案の定、貴司君は舞につれられて上昇すればするほど、言葉を失い、最後は一人でパリに下降しに行く。というダメダメぶりであったし、最後になにかオチがついたわけでもなかった。なかなかむつかしい。

2023年2月19日日曜日

研究結果の解釈にChatGPTを試してみたら、それっぽい結果が出たが出典はでたらめだった。

研究結果の解釈にChatGPTが使えるのか試してみました。

メタボローム分析といったオミクス解析を行う理由の一つに、分子メカニズムの解明があります。例えば低温ストレス条件下の出芽酵母のメタボローム分析を行い、タウリンという代謝物が増加することを発見したとします(フィクションです)。次に知りたくなるのは、出芽酵母においてタウリンと低温ストレスには、どのような関連があると知られているのか?です。たいていの場合、ここからの文献検索がめんどくさく、仮説生成に行き詰まっていました。そこになんでも質問に答えてくれるChatGPTが登場しました。救世主となるのか試してみました。

質問

What is a possible relationship between taurine and cold temperature stress in yeast

ChatGPT

There is limited research on the relationship between taurine and cold temperature stress specifically in yeast. However, some studies have investigated the potential role of taurine in protecting yeast cells from various stressors, including cold temperature stress.

One study published in the journal Applied and Environmental Microbiology investigated the effects of taurine on the growth and viability of yeast cells exposed to low temperatures. The researchers found that taurine supplementation improved the survival of yeast cells under cold stress conditions. They suggested that taurine may help protect yeast cells from damage caused by oxidative stress and other harmful effects of cold temperature stress.

Another study published in the journal Food Science and Biotechnology also showed that taurine supplementation could enhance the viability and stress resistance of yeast cells at low temperatures. The authors suggested that taurine may be a potential ingredient in the development of functional foods that can enhance the cold tolerance of yeast cells.

While these studies provide some evidence of a potential relationship between taurine and cold temperature stress in yeast, further research is needed to fully understand the mechanisms involved and to determine the optimal conditions for taurine supplementation in yeast cells exposed to low temperatures.


これを見ると、おおっと思ってしまいますね。一般論を挙げ、その根拠となるジャーナル記事を2つ紹介しておいて、最後にはより詳細な研究が必要。という、完璧なお返事に見えます。

そこで根拠になったジャーナル記事を確かめてウラを取ろうとしました。

質問

Please tell me the URL of the Applied and Environmental Microbiology study


ChatGPT

Here is the URL for the Applied and Environmental Microbiology study:

https://aem.asm.org/content/77/4/1292

Please note that some journals may require a subscription to access the full text of articles. If you do not have access to the full article, you may be able to read the abstract or summary of the study.

と自信たっぷりにURLを教えてくれました。このリンクは実際に機能しましたが、リンク先の記事は

Applied and Environmental Microbiology Vol. 77, No. 4

Identification of Candidate Carrier Proteins for Surface Display on Lactococcus lactis by Theoretical and Experimental Analyses of the Surface Proteome

というもので全く無関係です。あれれと思って、2つめについても同じ質問をしてみました。

質問

Please tell me the URL of the Food Science and Biotechnology study

ChatGPTのお返事

Here is the URL for the Food Science and Biotechnology study:

https://link.springer.com/article/10.1007/s10068-016-0081-7

Please note that some journals may require a subscription to access the full text of articles. If you do not have access to the full article, you may be able to read the abstract or summary of the study.


上記のリンクは機能しませんでした。そこで、タイトルと筆者を聞く作戦に変更

質問

Please tell me the title and authors of the Food Science and Biotechnology study

ChatGPTのお返事

The title of the study published in Food Science and Biotechnology is "Enhancement of stress tolerance and survival of brewer's yeast during storage at low temperature by taurine." The authors of the study are Sun-Mi Lee, Seung-Cheol Lee, and Jin-Hwan Park.

ですが、Food Science and BiotechnologyのHPで検索しても、そういうタイトルの論文記事は存在しません。次にページ番号を聞いてみました。

質問

Please tell me the volume and page numbers of the Food Science and Biotechnology study

ChatGPTのお返事

The Food Science and Biotechnology study on the enhancement of stress tolerance and survival of brewer's yeast during storage at low temperature by taurine was published in Volume 25, Issue 3 of the journal. The article can be found on pages 837-843.

やはり該当する記事は存在せず、架空の記事のようです。このようなタイトルを持つ記事はGoogle検索でも存在せず、タウリンと低温ストレスとの関連を酵母で調べた記事も見当たりませんでした。

最初の質問に対する答えはを検証してみると

There is limited research on the relationship between taurine and cold temperature stress specifically in yeast. 

=>限られているのは正しい

However, some studies have investigated the potential role of taurine in protecting yeast cells from various stressors, including cold temperature stress.

=>various stressorsは正しいが、cold temperature stress.は根拠なし

One study published in the journal Applied and Environmental Microbiology investigated the effects of taurine on the growth and viability of yeast cells exposed to low temperatures. The researchers found that taurine supplementation improved the survival of yeast cells under cold stress conditions. They suggested that taurine may help protect yeast cells from damage caused by oxidative stress and other harmful effects of cold temperature stress.

=>存在しない記事を要約している。要約内容は、部分的な知識のつぎはぎとなっている。たとえは、タウリンの添加が他のストレスに効くという論文はある。タウリンが動物で酸化ストレスに効くという論文はいっぱいある。これらの知見をつないで言語モデルがでっち上げた文章であると思われる。

Another study published in the journal Food Science and Biotechnology also showed that taurine supplementation could enhance the viability and stress resistance of yeast cells at low temperatures. The authors suggested that taurine may be a potential ingredient in the development of functional foods that can enhance the cold tolerance of yeast cells.

=>存在しない記事を要約している。

While these studies provide some evidence of a potential relationship between taurine and cold temperature stress in yeast, further research is needed to fully understand the mechanisms involved and to determine the optimal conditions for taurine supplementation in yeast cells exposed to low temperatures.

=>一般論としては誤りではない。

といえます。タウリン、酵母、低温ストレス、でそれっぽく作った根拠レスの3題話と言えましょう。


次にポジコンとして前立腺がんのバイオマーカーとして有名なサルコシンと前立腺がんの関係を聞いてみました。

質問

What is the relationship between sarcosine and prostate cancer?

ChatGPTのお返事

Sarcosine has been implicated in prostate cancer because it is known to be involved in various cellular processes that are relevant to cancer development and progression. Sarcosine is an amino acid derivative that has been identified as a potential biomarker for prostate cancer. It has been found to be present at higher levels in prostate cancer cells compared to normal prostate cells.

Studies have suggested that sarcosine may be involved in promoting the aggressive behavior of prostate cancer cells, including their ability to invade surrounding tissue and metastasize to other parts of the body. For example, a study published in the journal Cancer Research found that high levels of sarcosine were associated with a higher risk of prostate cancer progression and metastasis.

However, the exact mechanisms through which sarcosine promotes prostate cancer progression are not yet fully understood. Some researchers have suggested that sarcosine may play a role in regulating the expression of genes that are involved in cancer cell growth and metastasis. Others have suggested that sarcosine may influence the activity of enzymes that are involved in cancer cell metabolism.

While more research is needed to fully understand the relationship between sarcosine and prostate cancer, some studies suggest that sarcosine may be a promising target for the development of new diagnostic and therapeutic approaches for this disease.

質問

Please tell me the title, author, volume, page number and URL of the Cancer Research study

ChatGPTのお返事

The title of the Cancer Research study is "Sarcosine Promotes Prostate Cancer Cell Proliferation and Migration by Up-regulating Steroid Receptor Coactivator-1 Expression" and the authors are Kuei-Pin Chung, Yi-Ju Lee, Hsiao-Ling Cheng, Yu-Chi Tsai, Hsiang-Ying Lee, Yi-Ping Huang, and Chih-Hsin Tang. The study was published in Volume 69, Issue 19 of Cancer Research, and can be found on pages 7644-7652.

Here is the URL for the study: https://cancerres.aacrjournals.org/content/69/19/7644


と自信満々ですが、やはりリンク先にはそんな記事は存在せず、そういうタイトルの論文も存在しません。でたらめです。が、最初の質問へのお返事が間違っているかというと


Sarcosine has been implicated in prostate cancer because it is known to be involved in various cellular processes that are relevant to cancer development and progression. 

=>一般論としては正しい

Sarcosine is an amino acid derivative that has been identified as a potential biomarker for prostate cancer. 

=>正しい

It has been found to be present at higher levels in prostate cancer cells compared to normal prostate cells.

=>正しい

Studies have suggested that sarcosine may be involved in promoting the aggressive behavior of prostate cancer cells, including their ability to invade surrounding tissue and metastasize to other parts of the body. 

=>一般論として正しいが根拠がないので採用できない

For example, a study published in the journal Cancer Research found that high levels of sarcosine were associated with a higher risk of prostate cancer progression and metastasis.

=>これは全部嘘

However, the exact mechanisms through which sarcosine promotes prostate cancer progression are not yet fully understood. 

=>一般論として常に正しい

Some researchers have suggested that sarcosine may play a role in regulating the expression of genes that are involved in cancer cell growth and metastasis. Others have suggested that sarcosine may influence the activity of enzymes that are involved in cancer cell metabolism.

=>一般論として正しいが根拠となる文献がわからないので、採用できない。

While more research is needed to fully understand the relationship between sarcosine and prostate cancer, some studies suggest that sarcosine may be a promising target for the development of new diagnostic and therapeutic approaches for this disease.

=>一般論として常に正しい

です。一般論として間違っているとは言えないものの、根拠をただしく示すことができていない。というのが現状だと思われます。

ChatGPTの言語モデルは、ある単語に近接して出現する別の単語を学習しており、生成過程では、与えられた2-3単語に関連する単語を使ってそれらしいお話を作っているため、今回の結果はきちんと動いているようにも思います。ただ、"Some researchers have suggested that "のよに、伝聞として内容を記述しているのに、その情報元、根拠をただしく示すことができていない。ようです。さらに、まずいことに、存在しない論文を根拠だと答えてしまっています。

ただ、この説明を妄想=根拠レスなそれっぽい説明=仮説ととらえると面白いかもしれません。たとえば最初の例だと、低温ストレスでタウリンが増える。なぜ?から、低温ストレス=>酸化ストレス=>タウリンという新たな仮説がしめされた。と考えるのはありだと思いました。


さらに番外編として、自己言及的な質問をしてみました。これはレイモンド・スマリヤンの「決定不能の論理パズル」に出てくる命題で

あなたはこの文章が正しいと知ることはないでしょう。

というものです。これを聞いたひとは

正しいとおもう=>知ることはないといっているのに、知ってしまったから文章は誤り

誤っていると思う=>正しいと知ることはない、ことが起きたので文章はただしい

と、この論理式の解釈を常に間違う(=照明、決定できない)ことになります。

いわゆるゲーデルの完全性定理(公理系には証明できない命題が必ず存在する)のもっともシンプルな例なんですが、これをChatGPTに聞いてみました。

質問

You will never know this sentence is the truth.

お返事

As an AI language model, I don't have the ability to know whether a statement is true or not, as I don't have access to external sources of information beyond what is provided to me. However, I can analyze the syntax and structure of the sentence you've presented to me and understand its grammatical meaning.

The sentence "You will never know this sentence is the truth" is a statement that suggests that there is doubt about the truth of the sentence. It could be interpreted as a self-referential statement that questions the ability to discern truth from falsehood. However, without further context or information, it is impossible to determine the veracity of the statement.

うまくかわしてきますね。











2023年2月14日火曜日

音ゲーとメール処理の共通点

 最近愚息が音ゲーにハマっている。かつてのドルアーガ―の塔やドラクエIIやWizardry I に燃えたファミコン少年だった私も、愚息がプレイするプロセカやらチュウニズムやらにはまったくついていけないのであるが、

上から降ってくる物体を、テンポよく脊髄反射で処理する

というのは

事務やあちこちからメールボックスに降ってくるメールに、テンポよく脊髄反射で返信する

というのに似てるなとふと思った。こちらは仕事を早く終わらせるべく、キーボードさばきが華麗になっていくのだが、お金を払ってまでそれをするモチベーションはどこにあるのやら。