2023年4月5日水曜日

舞い上がれるが舞い降りれない

朝ドラの「舞い上がれ」をせっせと見てしまった。10年ほど前に読んだ「女の子を殺さないために 解読「濃縮還元100パーセントの恋愛小説」」(川田宇一郎)によると、女の子が上昇してみんなより先に歩くと死ぬ。という日本文学の伝統があるらしい。たしかに、「天気の子」でも陽菜が透明になって空の上に登っていくのは、死を意味していたが、そうはさせまいと帆高がまさしく引きずり下していた。また逆に女の子が下降すると、世界の秘密が解明されるというモチーフもある。「風の谷のナウシカ」でナウシカが流砂で腐海の底に落ちると、腐海の秘密がわかる。「君の名は」で三葉が最後、山から転げ落ちるように下山すると世界の運命がかわる。というように上昇、下降はアニメーションでも繰り返し出てくるモチーフとなっている。さらに「夢分析」(新宮一成)によると「空を飛ぶ夢」をもっとも素直に読むと、言語の獲得体験の再経験であるが、空を飛びすぎる=言葉だけの存在になる=あの世に行くという意味も持ち得るらしい。

「舞い上がれ」で興味深いのは、ヒロインの舞は、空を飛ぶことを夢見て、努力して空を飛び、さらに空を飛んでも死なない。のである。むしろ、舞の困難は「着陸できない」ことである。これは、日本文学の伝統が怨念となって舞を空から降ろすまいとしているようにも思える。たとえば、なにわバードマンでパイロットとなった舞は着陸しないために、必死になってペダルをこぐことを求められる。その後、パイロットになりたい!と、養成学校に行った舞がてこずったのは着陸である。そこで、「天気の子」のように、舞を愛した男たちがなんとか着陸させようとがんばる。部屋に作ったシミュレーターでの練習で、レバーに手を添えて助けてくれた柏木とは恋仲になる。また、その後の飛行実習では強風のため着陸できなくなり、他の空港まで移動する窮地に陥る。そこに飛行機を飛ばして、助けてくれた大河内教官から、世の中のみなさんは男女の機微を読み取って悶絶していた。このように「下降」をする際には男の子が女の子を助けることが多い。

また、最終週で空飛ぶ車のパイロットとして舞は再び空を飛ぶが、やはり着陸シーンは描かれない(着陸しないまま物語が終わる)。これは時系列的に未来のシーンということもあり、ばあばを天国に送り届ける冥界のパイロットの幻のシーンである、ともいえるかもしれない。

さらに興味深いのは、幼馴染の貴司君である。貴司君は下降を好む上昇できない男の子でありつつ、短歌という「言葉」得ることで社会的に上昇したりする。しかし、言葉をみつけるまでには「海の底に潜らなくてはならない」という下降を経る必要がある、かつての穴に落ちる物語の主人公のタイプの男の子である。「舞い上がれ」では、この上昇する女の子が、下降する男の子と結ばれる物語を作るという課題にチャレンジしたようであるが、舞が貴司君と結婚した理由は、視聴者にはまったく理解ができなかったと思える。案の定、貴司君は舞につれられて上昇すればするほど、言葉を失い、最後は一人でパリに下降しに行く。というダメダメぶりであったし、最後になにかオチがついたわけでもなかった。なかなかむつかしい。

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