2018年10月26日金曜日

もしも生体成分分析専用HPLCがあったら2

2.トラップカラム再興

バイオ分析では、いろいろな成分をふくんだぐちゃっとした試料を取り扱います。事前に、不要な塩、金属イオンや、高分子など極力除く努力が行われますが、なかなか完璧にはできず、めんどくさいなぁとおもいます。このぐちゃっとした試料をHPLC装置に供すると、不要な塩、金属イオンや、高分子などがカラムを通過します。その時に、変な相互作用のせいで、これらの金属イオンや、高分子などが固相の表面にくっつきます。カラムが汚れた状態となるわけです。一応、各分析毎に汚れを除くために溶出力の強い液相を流す「洗い」を行いますが、完ぺきにはきれいになりません。固相の表面が、金属イオンで汚れると、イオン性の化合物の分離が悪化します。とくに2価のカチオンのMg2+のせいで、アニオン性化合物、特にATPやαケト酸のピーク形状が悪化しているようです。ATPやαケト酸は、生体成分として最も重要なものであり、何とかしなくてはなりません。
そこで、オンラインでの固相抽出というイメージで、トラップカラムを再興したいものです。
・グラジエント溶出が大前提。
・トラップカラムに試料をトラップ。脱塩。
・バルブを切り替えて、グラジエント溶出を開始、トラップカラムにトラップされたサンプルが順次本カラムへ溶出されていく。
・分析対象の溶出が終わったら、バルブを切り替える。トラップカラムと本カラムを別個に洗浄する。
・トラップカラムと本カラムを開始状態にコンディショニング。

これにより、本カラムに汚れのもとが通過するのと最低限にできます。

トラップカラムをもちいたバイオ分析を実現するには、
1.バイオイナート仕様のトラップカラム、ガードホルダー。後述するように、ミクロLCを目指すので、サイズは内径1.0mm, 2.0mmくらいのバリエーションが欲しい。
2.トラップカラムにもPFPPなどの多様なケミストリー
3.本カラム用の2液高圧グラジエント用ポンプと、トラップカラム用のポンプ2液分。
4.低デッドボリュームのバルブ

が必要ですね。3.4.お金で解決しますが、1.2.は、カラム屋さんに作ってもらわなくてはなりません。

また、トラップカラムには、いい面と悪い面があります。
Pros セミミクロスケールでの利用を前提に作られたオートインジェクタと、ミクロスケール、ナノスケールの本カラムの間のつなぐ役割ができます。本カラムが汚れにくくなります。
Cons システムが複雑になり、トラブルの原因が増えます。またどうしてもトラップ時に測定対象化合物もロスしてしまうため、トラップカラムが大嫌い。というひとも世の中には多いです。

とくに低分子のバイオ分析では、「本カラムが汚れにくくなる」ご利益が、欠点を大幅に凌駕する可能性があります。チャレンジする価値はあるでしょう。


2018年10月21日日曜日

もしも生体成分分析専用HPLCがあったら1

HPLCとは高速液体クロマトグラフィー High performance liquid chromatographyのことです。バイオ分析では、生体中代謝物を抽出してサンプルを作ります。HPLCはサンプル中の個々の代謝物の分離を担当します。代謝物を分離すると、個々の代謝物の定量が容易になります。HPLCでは、個体の粒子(固相)を詰めたカラム(管)に、溶媒(液相)に溶けた試料を流します。すると、固相との相互作用の弱い化合物は早くカラムから流出し、相互作用の強い化合物は遅くカラムから流出します。これにより、化合物を分離することができます。HPLCが今後もバイオ分析の中核を担う分離技術であることは明らかです。ので、もし、生体成分分析専用HPLCがあったら、妄想してみました。

1.なにはともあれバイオイナート

HPLCは液相が触れる部分はおおよそ
・ステンレス鋼材(SUS)の部品、配管
・ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の配管
でできています。このうち、ステンレス鋼材にはアニオン性の化合物が吸着し、ピーク形状が悪化する原因になるといわれています。アニオン性の化合物はバイオ分析のもっとも大事な測定対象が多く含まれています。
現状のHPLCはバイオ分析用に作られているとは全く言えません。
PEEKにもいろいろくっつくようですが、なにはともあれステンレス鋼材(SUS)を流路から排除する必要があります。また、ステンレス鋼材から金属イオンが溶け出す(水は最強の溶媒)とも言われており、溶け出した金属イオンが、アニオン性の化合物と相互作用したり、イオン化抑制を起こしたりするといわれています。

となると、ステンレス鋼材を使わず、生物不活性(バイオイナート)素材でHPLCシステムを構成することが、バイオ分析の第一歩になります。これには、

1.バイオイナートのHPLC装置、セミミクロ、ミクロ、ナノスケール
2.バイオイナート素材のカラム、トラップカラム、プレカラム、カラムホルダー
3.バイオイナート素材のバルブ。セミミクロ、ミクロ、ナノスケール用
4.LC-ESI-MSではESIイオン源のスプレーニードル
5.メタルフリーの水、メタノール、アセトニトリル、ギ酸、

が必要です。

1.については、すでにバイオイナート化されたセミミクロスケール用のHPLCが、国産だと島津製作所をはじめ、各社から市販されています。SUSをセラミック、チタンやPEEKに変更した装置です。ただ、バイオ分析の主戦場となると思われる、ミクロスケールの装置たなると、まだまだこれから、という状況です。ナノスケールはAMRさんとかに聞くといろいろありそう。
2.カラム管の内壁をガラスコートしたバイオイナートカラムもSGECERIなどから、セミミクロスケール+C18の組み合わせで、出始めています。どうもフリット部分がむつかしいようです。今後は、ミクロ、ナノスケール用のカラムでもバイオイナート化が進み、さらに、トラップカラム、プレカラム、カラムホルダーがでてくると完璧ですね。また、CERIさんカラムの管に、このメーカーの固相を詰めたい!などのわがままなユーザー向けのカラム充填サービスが登場すると嬉しいです。
3.もバイオイナートバルブがアジレントからが出しています。探せはいろいろありそうです。
4.SUSに接する部分を極力減らしたものが、ABSciex用に市販されております。作ることはできるようなので、各社出そろうといいですね。
これらの対策のご利益はCERIさんがテクニカルレポートとしてまとめておられ、やはり、ピーク形状の改善に効果があるみたいです。

とりあえず、バイオイナート化をすすめましょう




2018年10月1日月曜日

ロキ古細菌

ここしばらく、アーキアの代謝がマイブームである。真核生物は、アーキアの細胞内に原核生物が共生して、20億年前までには成立したらしい。水素仮説によれば、アーキアのユーリ古細菌門に属するメタン菌(嫌気条件下でメタンを生成しつつ、二酸化炭素と水素から有機物を合成可能)とαプロテオバクテリア(酸素が乏しい環境では発酵によって生き続け、水素と二酸化炭素と酢酸塩を細胞外に排出する)がお互いの排出物を利用しあう相利共生関係を持ち、さらにそれが細胞内共生へと発展したと考えられる。実際有機酸酸化細菌と、メタン菌との共生関係がよく観察されることから、有力な説とされている。一方、真核生物とアーキアが持ち、原核生物が持たない分子メカニズム(アクチン様タンパク、低分子量GTPアーゼなど)に注目し、真核によく似たアーキアを探す試みが最近活発化している。これまでに、ユーリ古細菌とはべつのクレン古細菌のほうが、類似点が多いことが明らかになり、これ以上は培養可能な菌からは見つかりそうにないので、メタゲノム解析データから、ゲノムを再構成するというアプローチがとられている。2015年の論文では、北極海のロキの丘と呼ばれる熱水噴出孔の付近から採取された培養できないアーキアの5,381の遺伝子を含むゲノムがメタゲノム解析から再構築された (Kegg organismにはLokiarchaeum sp. GC14_75としてすでに収録されている)。解析の結果、従来知られているアーキアとは大きく異なること(そこでロキ古細菌門を新たに作った)、系統樹解析からアーキアの中で最も真核生物に似ていることが示された。また、2016にはこの生物が水素に依存しているらしいというか、メタン菌に必要な遺伝子を持つらしいことが報告され、水素仮説と整合があることからも、真核生物とアーキアの間を埋める生物である可能性が取りざたされている。ちなみにKEGGによるとLokiarchaeum sp. GC14_75の再構成ゲノム中には、グルコースから乳酸に至る解糖系が通っているなど代謝屋としても注目ポイントが高い。
この領域はメタゲノム解析+ゲノム再構築という技術をてこに、これからも多くの発見があるだろう。たとえば最近になって、より真核生物に近いとされる「ヘイムダル古細菌」がみつかったりしている。
が、はたしてこの方法できちんとしたゲノムが再構成されているのかについては疑問が多い。例えば、2017年の論文では、Lokiarchaeum sp. GC14_75のゲノムデータで系統樹解析をやり直している。すると、EF2という遺伝子のデータを抜いたら、Lokiarchaeum sp. GC14_75はユーリ古細菌に属するという結果になった、メタゲノム中のアーティファクトによく注意した再検討が必要だろう。と、報告されている。
たしかに、
  • 真核生物の成立は進化の過程で1回しかなかったらしいが、メタン生成菌とバクテリアの共生は現在でも見られる、1回しか起きなかった理由がうまく説明できない。
  • 真核生物にはメタン生成に必要なheterodisulfide reductaseの遺伝子を持つ生物はいないようだ。
というあたりで、メタン生産菌を念頭に置いた水素仮説そのものも再検討が必要だろう。いずれにせよこれらのアーキアの代謝特性が、現在の真核生物の代謝とどのように関連しているのかにはものすごく興味があります。