2018年10月1日月曜日

ロキ古細菌

ここしばらく、アーキアの代謝がマイブームである。真核生物は、アーキアの細胞内に原核生物が共生して、20億年前までには成立したらしい。水素仮説によれば、アーキアのユーリ古細菌門に属するメタン菌(嫌気条件下でメタンを生成しつつ、二酸化炭素と水素から有機物を合成可能)とαプロテオバクテリア(酸素が乏しい環境では発酵によって生き続け、水素と二酸化炭素と酢酸塩を細胞外に排出する)がお互いの排出物を利用しあう相利共生関係を持ち、さらにそれが細胞内共生へと発展したと考えられる。実際有機酸酸化細菌と、メタン菌との共生関係がよく観察されることから、有力な説とされている。一方、真核生物とアーキアが持ち、原核生物が持たない分子メカニズム(アクチン様タンパク、低分子量GTPアーゼなど)に注目し、真核によく似たアーキアを探す試みが最近活発化している。これまでに、ユーリ古細菌とはべつのクレン古細菌のほうが、類似点が多いことが明らかになり、これ以上は培養可能な菌からは見つかりそうにないので、メタゲノム解析データから、ゲノムを再構成するというアプローチがとられている。2015年の論文では、北極海のロキの丘と呼ばれる熱水噴出孔の付近から採取された培養できないアーキアの5,381の遺伝子を含むゲノムがメタゲノム解析から再構築された (Kegg organismにはLokiarchaeum sp. GC14_75としてすでに収録されている)。解析の結果、従来知られているアーキアとは大きく異なること(そこでロキ古細菌門を新たに作った)、系統樹解析からアーキアの中で最も真核生物に似ていることが示された。また、2016にはこの生物が水素に依存しているらしいというか、メタン菌に必要な遺伝子を持つらしいことが報告され、水素仮説と整合があることからも、真核生物とアーキアの間を埋める生物である可能性が取りざたされている。ちなみにKEGGによるとLokiarchaeum sp. GC14_75の再構成ゲノム中には、グルコースから乳酸に至る解糖系が通っているなど代謝屋としても注目ポイントが高い。
この領域はメタゲノム解析+ゲノム再構築という技術をてこに、これからも多くの発見があるだろう。たとえば最近になって、より真核生物に近いとされる「ヘイムダル古細菌」がみつかったりしている。
が、はたしてこの方法できちんとしたゲノムが再構成されているのかについては疑問が多い。例えば、2017年の論文では、Lokiarchaeum sp. GC14_75のゲノムデータで系統樹解析をやり直している。すると、EF2という遺伝子のデータを抜いたら、Lokiarchaeum sp. GC14_75はユーリ古細菌に属するという結果になった、メタゲノム中のアーティファクトによく注意した再検討が必要だろう。と、報告されている。
たしかに、
  • 真核生物の成立は進化の過程で1回しかなかったらしいが、メタン生成菌とバクテリアの共生は現在でも見られる、1回しか起きなかった理由がうまく説明できない。
  • 真核生物にはメタン生成に必要なheterodisulfide reductaseの遺伝子を持つ生物はいないようだ。
というあたりで、メタン生産菌を念頭に置いた水素仮説そのものも再検討が必要だろう。いずれにせよこれらのアーキアの代謝特性が、現在の真核生物の代謝とどのように関連しているのかにはものすごく興味があります。

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