Close to Death (Anthony Horowitz) 読了。Hawthorne and Horowitzシリーズの5作目。ロンドン、リッチモンドのテムズ川沿いにある、6件の高級住宅が電子ゲート内に同居するRiverview closeに住むチェスのグランドマスターが夜明けの前のテムズ川を眺めながらオンラインチェスの対戦をしている。という描写から始まる。Hawthorne and Horowitzシリーズは、Hawthorneがホームズ、著者のHorowitz本人はワトソン役として、あちこちうろうろしながら解決した事件を、後日Horowitzが本にまとめて出版した、というメタフィクション的構造を持っている。なので、基本的に物語はHorowitz視点の1人称で書かれる。しかし、例えば第1作のThe Word is Murderでも一番最初に、その後被害者となる老婦人が殺害される当日に葬式の予約に行く描写は3人称で書かれており、4-5ページ経ったところで、突然、「私はそのころはまだ知らなかった、、」というような感じで、”I”という主語で著者自身が発する声が登場する。
というわけで、本作Close to Death が3人称の描写で始まっても、そのうち1人称が出てくるのかなと思っていたら、なかなか出てこないし、しかも、あれ?時系列がおかしくない?などなど、やきもきした読者はその後の展開に驚愕することになるだろう。詳細はぜひ、読んでほしいが、本作においてHorowitzはメタフィクションの要素を一歩進め(詳しくかけないのが辛い)、作品中で作品について登場人物自身がコメントするというすごいミステリに仕上がってます。はい。
このシリーズは前作のThe Twist of a Knife で年末の海外ミステリ賞の1位を初めて逃したが、本作での帰り咲きは十分にありえるだろう。
また、本作中ではクリスティ、ホームズ、ポアロ、横溝正史!、島田荘司!作品への言及があるように、本格小説へのレスペクト、さらには特にクリスティーの「信頼できない著者」に挑戦する気満々であるように思える。作品中では本作も含めてあと3作を出版する計画となっており、Hawthorneの過去の謎を解きつつ、最後はその謎を知ったHorowitzがHawthorneを殺害する。あるいは、それとは別に、HawthorneがHorowitzの犯罪を暴くというような展開になるのではないかと今からワクワクしている。
2024 8 22追記
「Close to Death」というタイトルは、事件の舞台となったRiverview closeとの掛け言葉になっていて邦訳時のタイトルがどうなるのか気になっていたが、「死はすぐそばに」になったらしい。まあしょうがないよね。
あと、Horowitzの次回作はAtticus Pundものの第3作「Marble Hall Murders」になるらしい。2025年3月13日発売だそうだ。楽しみである。
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