2018年11月2日金曜日

もしも生体成分分析専用HPLCがあったら3

3.ミクロLCだ!

バイオ分析では微量成分を定量したいので、常に高感度化が課題です。感度に余裕があれは、必要なサンプル量が減らせる。並行して測定できる代謝物が増やせるなど、分析法全体が「ラク」になります。
検出器での感度向上はいい装置を買えばいい。という「お金」の話がほとんどですが、HPLCでの高感度化には知恵でなんとななる部分がだいぶあります。
HPLCの教科書には、カラムを細く(内径を小さく)すると感度が向上すると書いてあります。
100 * 4.6 mmのカラム+1.0ml/minの流量
100 * 2 mmのカラム+0.2ml/minの流量
の2条件で、同量のサンプルを分析し、ある成分が12秒のピーク幅で観測された場合、同じ量の成分が0.2mLあるいは、0.04mLの液相に溶けていたことになります。濃度は後者のほうが5倍高いので、感度が5倍、という理屈です。

ただ、これまでのHPLCとくにLC-MSの構成は薬物動態分野のニーズが色濃く反映していました。
・微量といっても薬物代謝物なので、割とあるからそれほど感度は大事じゃない。
・サンプル数が多いので、ハイスループット分析がしたい。
・セミミクロスケールの内径 2 mmの短めのカラムにサブ2ミクロンの固相を詰めたものを用い、液相を0.2-1.0ml/minくらいの流量に設定するのがいいバランス。流量を上げることでハイスループットな分析に対応できた。
・1.0ml/minくらいまでの流量であれは、ESIのイオン源の進化(ネビュライザガス+超高温の熱風を吹き付けて、蒸発促進)で対応できた。
・セミミクロスケールで要求されるデッドボリュームはそれほど厳しくなく、オートサンプラ等の構成が容易だった。
・ミクロスケール(カラムの内径が0.2 - 0.5mm、 2 - 50microL/minくらい)になると、ミキサー、オートサンプラ、ESIイオン源等をすべて再検討する必要があるが、そこまでして高感度を狙う理由がなかった。
・セミミクロスケールがいい感じ。

また、ナノLC-MSの構成はプロテオミクスのニーズが色濃く反映していました。

・サンプルが微量な場合が多く、より多くMS/MSデータを取得するためには、感度だけが大事だ。
・サンプル数はそれほど多くないので、スループットはあまり気にしない。
・ナノスケールの内径 0.075-0.1 mmの長めのカラムに3-5ミクロンの固相を詰めたものを用い、液相を100-400 nl/minくらいの流量に設定する。のがいいバランス。
・この領域だど、ネビュライザガスなしでESIのイオン化が可能だ。また、あきらかにセミミクロスケールより感度が向上する。
・流量が少ないので、高性能なシリンジポンプのポンプを用いることができた。ミキサーは不要で、ESIイオン源はむき出しで使うことで解決できた。また、ナノLCはどうしても動作が遅く、1分析の時間を短くするのがむつかしい(最低でも40-50分という感じ)が、スループットはあまり気にしないのでなんとかなった。
・ナノスケールがいい感じ。

一方、バイオ分析はわがままな分析です。
・微量の生体成分が測定したいので、感度は大事だ
・サンプル数もわりと多いので、ハイスループット分析がしたい。15-20分くらいのグラジエント分析を回したい。

ので、セミミクロスケールの分析の延長、次のステップとしてのミクロスケールにどうしても興味が出てきます。

これを実現するには

1.ミクロLC でバイオイナート化したもの
2.ミクロLC 用の内径が0.2 - 0.5mmくらいのカラムでバイオイナート化したもの
3.ミクロLC 用に最適化されたESIイオン源

が必要です。ミクロLCはアジレントが昔からラインアップに載せていたりしてあるにはありました。最近になって島津製作所がミクロLCとミクロLC用に最適化されたESIイオン源売り出すなど、いよいよミクロへの移行が実現化しそうです。ミクロLC=バイオ分析用と考えるなら、バイオイナート化が喫緊の課題です。また、ミクロLCはカラムのバリエーションが極端に少なく、これはまだ解決していません。ただSGEなど、もともと受注生産的なメーカーは、いろいろなミクロLC用カラムが使えそうですが、それでも、バイオイナートなカラムは、まだないようです。ミクロLC=バイオ分析用=バイオイナートが標準。
という夢のような時代が早く来るといいな。と思います。

一方、ミクロLCによる感度の向上がどのくらいあるのかははっきりしません。特に注意すべきは、上述の感度向上のロジックはUV検出器などで測定する「濃度」の話だという点です。導入するサンプル量が同じであれは、ミクロスケールでもセミミクロスケールでもMSのイオン源に入ってくる測定対象成分のモル数は同じになります。なので、イオン化効率が100%だったらミクロスケールでもセミミクロスケールでも同じレスポンスが得られるはずです。セミミクロスケールからナノスケールにスケールダウンしても、理論値通りの感度向上にはならないことはよく知られています(理論的には200-500倍くらい上昇するはずが、実際は数十倍だったりする)。ミクロスケールへの移行での感度の向上はほとんどないか、10倍程度くらいになると考えるのが妥当でしょうか(島津のミクロLCを試した先生によると実際に感度は向上したそうです)。
いずれにせよ、ミクロLCが、バイオ分析のフロンティアであることは間違いないでしょう。あと、内径4.6mmと2mmの間に3mmという時代があったように、2mmと0.5mmの間の1mmがブレークしたりしたら楽しい時代になりますね。


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