2021年3月24日水曜日

起源の神話を粉砕する

 起源の神話を粉砕する本を何冊か読んだ。

「負債論: 貨幣と暴力の5000年(デビッド・クレーバー)」が粉砕を目指すのは、経済学が説く貨幣の起源に関する神話である。昔々、物々交換の経済がありました。しかし、欲しいものと、余っているものとのマッチングが難しいです。そこで貨幣が登場して効率化できました。めでたしめでたし。というお話は、これまでのところ物々交換しかない社会が見つかったことがない。という点と、原始的な社会における貨幣が、人と人との関係を取り結ぶために用いられる、例えば婚姻における結納品のような役割を持っている、点で退けられる。貨幣とは「どうやっても支払い不可能である負債」存在することを示す証拠として贈られる。貨幣を渡して、相手にわびをいれ、負債のあることを認め、その解消に努めることを象徴するものとしての貨幣である。レヴィストロースの親族の基本構造では婚姻関係の規則が、社会構造を構築することを示したとされるが、その裏バージョンとして、負債が社会を構築しているとも言えることになる。さらに、婚姻関係は相当古いものなので、貨幣の期限も相当古く、「どうやっても支払い不可能である負債」という概念がシンボル化した段階で登場したのだろう。さらに、そこに暴力が介入すると、「どうやっても支払い不可能である負債」が奴隷によって支払われるようになる。借金のカタに家族が売り飛ばされるというやつですな。また、本書で問題になるのは、この世には返さなくてはならない借金と返さなくていい借金があり、それは、貸し手と借り手の非対称な力関係すなわち暴力が関わるという点を指摘する。経済学的な貨幣の起源論が隠したいのは、貨幣に必然的に付随する非対称性、暴力だったのである。

本書の面白い指摘としてアメリカ国債がある。現在アメリカは世界の各地に自分の基地を置いている。そういう国は歴史的に帝国と呼ばれる。アメリカは強大な軍事力の維持にドルを使っている。そのドルでアメリカ経済は外国(日本とか)から商品を買い、日本は取得したドルで、アメリカ国債を買っている。これって帝国への上納ってやつじゃないの?という指摘は非常に興味深い。


「言語の起源 人類の最も偉大な発明(ダニエル・エヴェレット)」が粉砕を試みるのは言語の起源、ヒトは10万年くらい前にFOXP2という遺伝子に起きた変異で言語を話すようになり、その言語の核心とはチョムスキーの生成文法がいうところの「再起」である。というお話である。ます、言語ができる前段階には、シンボルが必要であること、シンボルさえあれば、言語まではそれほど遠くないことが議論される。言語の存在を直接示す物的証拠はまず見つけられないが、シンボル(人の顔)の存在を示唆する化石なら、100万年以上前のホモ・エレクトスの時代のものがあるらしい。さらにシンボルは芸術や文明にとって必須であり、シンボルがあるなら言語もそれに付随してあると考えられるのではないか、むしろ社会と言語の成立は切り離すことができるのか、という問題提起が行われている。また、「再起」がない言語の存在を示すことで、チョムスキーの生成文法というか言語=文法という観点を完膚なきまでに粉砕しようとしている。

本書では最初のシンボルについて何も述べられていないが、「負債論」と組み合わせて考えるとするなら、それは「どうやっても支払い不可能である負債」であってもおかしくはなく、たとえば20万年前のベレカット・ラムのビーナスは、そのシンボルとしての美術作品なのかもしれない。「言語の起源」は貨幣に関する言及を一切していない、負債については一瞬登場する。アマゾンの古い言語であるピダハン語の例で「私はあなたにバナナをあげる」「そうしていいよ」というもので、その説明としてあらゆる贈り物がお返しを前提にしており、バナナをあげるなら明日はあなたが私に何かくれるべきだという交換が前提にされている。という解説においてである。もしこの点を拡大解釈するなら、負債があるという感情が生じて、シンボル化することで、貨幣と言語が同時に生まれた。とも言えるのかもしれない。


「民主主義の非西洋起源について:「あいだ」の空間の民主主義(デビッド・クレーバー)」は書名のとおり、民主主義の起源はアテネにある。という通説を粉砕する。
まず、フランス革命やアメリカ独立宣言では共和制の構築が目指されていて、民主主義という用語すら存在しない。民主主義というアイデアは、文化と文化のあいだイロコイ族の連邦制度や、大西洋の海賊組織など、いろんな人びとが折り合いをつけてうまくやっていかなくてはならないときに生まれやすく、アメリカ合衆国憲法もそれを参考にした節があるが、もともとの支配層は、民主主義をやる気は全然なくむしろ嫌いだった(だって支配層だから)。その後、帝国主義的な国家の構築が進むと「民主主義」というタームが、市民の統治(人気取り)に都合がよいことに気づき、植民地支配の中で強化された可能性がある。こういう状況では、民主主義の正当化つすばらしい起源が必要となり、アテネの直接民主主義がそれにでっちあげられた。らしい。

これらを読んで思うことは、何かの起源について、現在の我々の常識や認識のフレームがそれを隠ぺいしてしまっている可能性がある。ということを疑ってかかる必要があるということである。生命の起源、代謝の起源。についても同様ではないか。


2021年2月25日木曜日

Python の DocstringをGithubで公開

 Python の DocstringをGithubで公開する方法


・Sphinxをインストール

conda install sphinx

・mfapyパッケージ内に

./docs

./htmlというフォルダを作る。

・公開したい(例:mfapy)パッケージ内で

sphinx-apidoc -F -o ./docs ./mfapy

という呪文を唱える ./mfapyのなかにモジュールのPythonファイルが入っている。

・./doc/conf.pyを開き

# import os

# import sys

# sys.path.insert(0, 'C:\\Temp3\\mfapy\\mfapy_latest\\mfapy')

をコメントアウト

extensions = [

    'sphinx.ext.autodoc',

    'sphinx.ext.viewcode',

    'sphinx.ext.todo',

    'sphinx.ext.githubpages',

    'sphinx.ext.napoleon',

]

のように'sphinx.ext.githubpages'、'sphinx.ext.napoleon'拡張を追加

・次なる呪文

     sphinx-build -a ./docs ./html

を唱える。./html内にファイルができる。

・./html/index.htmlを開き


<!DOCTYPE html>


<html lang="en">

  <head>

    <base href="{{site.github.url}}" charset="utf-8"/>

となるよう<base href="{{site.github.url}}" charset="utf-8"/>を追加


・Githubに例えば./mfapy-document/のようなレポジトリを作成する。

・Githubにプッシュ

・できたレポジトリのsetting => GitHub PagesのSourceをmasterにしてSaveする

・うまくいくと

https://fumiomatsuda.github.io/mfapy-document/

のように表示される。


頑張ってDocstringを書こう。





2021年1月12日火曜日

自粛しないがゲーム理論の最適戦略

 現在担当している講義ではさまざまな最適化法を取り上げ、線形計画法、非線形最適化法を解説している。おまけとして、ゲームの理論の最適戦略にも触れている。メイナード・スミスの「進化的に安定な戦略」は下記のようなタカ・ハトゲームで説明できる。

・集団にたくさん個体がいる。エサは常に2匹で分け合うがそのときにハト戦略とタカ戦略をとる。

・両者がハト戦略の時の利得は双方2(A)

・こっちがタカ、相手がハトのときはこっちの利得が4、むこうは0(B)

・両者がタカの時は双方1(C,喧嘩するのでコストがかかる)

この時、100%タカ戦略が「進化的に安定な戦略」である(ナッシュ均衡でもある)。仮にハト戦略100%の個体のみからなる集団にタカは侵入できるが(B>A)、逆はできないからである。

つぎにお互いの戦略がタカの時の利得を―1に変えると、タカ戦略は進化的に安定な戦略にならない。

・お互いがハト戦略の時の利得は双方2(A)

・こっちがタカ、相手がハトのときはこっちの利得が4、むこうは0(B)

・お互いの戦略がタカの時は双方-1(C,喧嘩するのでコストがかかる)

この場合は、相手の戦略によってこちらの最善手が異なるので(相手がタカの時はハト、相手がハトの時はタカ)、確率的にタカとハトを選ぶ混合戦略Qをとる。タカを選ぶ確率をqとすると、q=2/3の時に、

混合戦略Qのみをとる集団にハト100%の個体が侵入した時の利得は2/3

混合戦略Qのみをとる集団にタカ100%の個体が侵入した時の利得は2/3

混合戦略Qのみをとる集団に混合戦略Qの個体が侵入した時の利得は2/3

となり、混合戦略Qはハトにもタカにも負けない「進化的に安定な戦略」となる(計算は自分でやってみてね。このとき、混合戦略Qのみをとる集団には、どんな混合戦略をとる集団が侵入しても利得は2/3になるという性質がある)。


このタカ・ハトゲームが重要になるのは、コロナ状況下の外出・自粛の選択戦略を考えるときである。

・両者が自粛戦略の時の利得は互いに2(A)

・こっちが外出、相手が自粛のときはこっちの利得が4、むこうは0(B)

・両者が戦略が外出の時はお互い-1(C,感染が拡大するのでコストがかかる)

このとき、進化的に安定な戦略は、上記と同様「混合戦略Q:2/3の確率で外出する」である。現状をうまく説明できているような気がする。

「進化的に安定な戦略」である混合戦略Qで、外出を選ぶ確率qを下げるには、上記の利得を人為的に変える必要がある。これもいろいろ利得表を変えて計算するとわかるが、たとえば外出を選ぶ確率qを1/3に半減したい場合、

・市中感染のリスクが高くなると人は行動を変えるだろうと考えるが、それには、両者が外出したときの利得が-4にならないといけない。つまりかなり市中感染のリスクが高くならないと人は行動を変えない。

・休業補償をすれば自粛するだろうと考えるが、両者が自粛した時の利得を3.5にしないといけない。つまり休業補償はかなり手厚くしないと効かない。

ということが推測される。さらに一般化すると

・両者が戦略が外出のお互いの利得をk(k<0)とすると q = 2/(2-k)

・両者が戦略が自粛のお互いの利得をk(k<4)とすると q = (4-k)/(5-k)

という関係があり、kとqが非線形なので大きくkを変えないとqに効かないこともわかる。つまりこれらの手段は効率が悪い。

もう一つ手があり、

・こっちが外出、相手が自粛のときのこっちの利得を4-k, むこうの利得をkとすると、q=(2-k)/3となる。k=1の時にq=1/3となる。

つまり、外出する人のメリットを減らし、その分自粛する人のメリットが増える。という仕掛けがあると、行動を変えられると予想される。外出した人から料金を徴収し、自粛した人には利益がある。という仕組みを考えるとよいのではないか。また、式が線形なので、kの変化量に比例してqも変化する、やったらやっただけ効く可能性がある。

例えば、大都市圏の交通が鉄道に大きく依存していることに鑑みて、一般利用者の鉄道料金を一気に3倍とか5倍に値上げする。電車に乗って出勤しないとマズイ仕事をしている人は電子定期券ユーザーであると思われるので、定期券の電車賃の値上げはしない。がその代わりに、平日1日電車に乗らないと定期代の1-2%がご褒美のおやつ台としてSuicaポイント(ただし2週間で失効)ですぐもらえる。とか。片道500円の距離の通勤定期は月20000円くらいなので、一日200-400円をもらって、地元ですぐ使ってくれたらいいだろう。鉄道各社のインフラを使えばすぐ可能な気がする。

ただ、限界も見え見えである。

・通院に電車が必要。のようなケースのフォローが大変そう。

・自転車や車で通ってポイントをちょろまかす悪用が横行しそう。

・そのせいで道が自動車でむっちゃ渋滞しそう。

などとあまり現実的ではないか。ただ、なにかいいアイデアが必要とされているのは間違いないだろう。




2020年12月17日木曜日

Gmail 他のアカウントのメール取り込み不調時の解決策

 Gmailの障害後、他のアカウントのメール取り込みが行われなくなりました。

設定=>アカウントとインポート=>他のアカウントのメールを確認=>メールを今すぐ確認する

として手動で取り込みを行うと、以後自動取り込みが復活したので、記録として残します。

2020年11月10日火曜日

研究とは無関係のもろもろ

※NC700Xというバイクに8年以上乗っているが、先日、お出かけの帰りの給油で33.1km/Lの燃費を達成して驚いた。8年たってようやくエンジンにアタリがでてきたのだろか。

※NC700Xには、GIVIのTRN46N というトップケースを付けている。とっても便利だがある日、ガソリンスタンドでふたを開けると、ふたと本体の間の2つのヒンジ(蝶つがい)の片方の金属の棒がなくなっていることに気づいた。あちゃーと思って、GIVIの輸入元のデイトナカタログを見たが、載っておらず、しつこく調べると、カナダGIVIのページに076-Z590R Medium pinとして記載があることを発見した。そこで、デイトナのお問い合わせフォームから問い合わせたところ、

サイトへのお問合せありがとうございました。

弊社商品をご愛用いただきありがとうございます。

ヒンジ部分の金属棒は弊社に在庫がございます。

品番 16762

品名 GIVI Z590R ヒンジピン2本セット

価格 800円(税抜)

オートバイ部品用品店やネット検索によりご購入可能です。

このピンはヒンジ部分に圧入されております。穴が緩んでいることがあり抜けた個所

に挿入してもまた抜ける可能性がございますので対策が必要です。ご注意ください。

お手数をおかけしますが、よろしくお願いします。

というお返事を速攻いただき助かった。非常にレアなケースと思われるが、記録として記す。

※現在はホンダのバイクに乗っているが、これは世を忍ぶ仮の姿で、心はスズキにある(鈴菌保菌者である)。昨日のヨーロッパGPではスズキの2台が1-2フィニッシュを決めるという(38年ぶりらしい)快挙に驚いた。

2020年10月17日土曜日

SGDs超入門

近年、大学業界では、学内で進む多様な研究を、それが貢献しうるSDGs目標と関連付け外部に可視化する。みたいな話が出始めている。そこで、企業でのSDGs受容の背景を知りたくてファミマで売ってたコンビニ本の「60分でわかる!SDGs超入門(バウンド、技術評論社)」を読んだ。

本書は、簡潔、わかりやすいうえに、最後のいろんな企業における具体例があるおかげで、企業活動にSDGsがどう組み込まれるのかがよくわかる良書である(必要なポイントが押さえられているのかは、この1冊しか読んでないのでよくわからない)。

 SDGsの17目標には、それぞれ具体的なターゲットが設定されている。1.1 (数値目標)とか1.a (実現方法)が決められている。中身を見ると途上国の生活水準向上に関するものが多い。これは、2001年から2015年まで実施された途上国向けのミレニアム開発目標(MDGs)のバージョンナップ版としてSDGsが設定されたという背景を反映している。

一方、企業活動にとってSDGsが重要なのは、

  1. 投資家がSDGsに貢献する企業に投資をしたいと言いだしている。
  2. 消費者がフェアトレードなどを気にし始め、SDGsに貢献するものを買いたいと考え始めそうだ。
  3. このため、サプライチェーンの中から、途上国での児童労働とか森林伐採が絡みそうな、原料やプロセスを一掃したい。

からである。うまくいけば大変良い話である。

一方、投資家は投資の判断材料として、SDGsへの貢献度の定量的な評価、を求めるようになるんじゃないだろうか。すると企業は、SDGsへの貢献度が高く見せたいというインセンティブができる。本書58ページによるとすでに「SDGsウォッシュ」なる言葉も生まれているらしい。現在はあのロゴを何個並べられるかを、競っているようにみえるが、そのうち、各企業の活動が、途上国の生活水準向上のターゲット(数値目標)実現にどれくらい貢献しているのかの数値が求められるようになるだろう。企業のSGDsランキングはもうある。

ランキングが出ると、社長さんは自社のランキングをなんとか上げようと考える。すると、変なことが起きやすい。途上国の生活水準向上に向けたとりくみを行った結果、SDGsのランキングが上がるのではなく、SDGsのランキングあげるためのSDGsへの取り組みとなってしまうからだ(大学ランキングがまさしくそうなっている)。

また、企業ランキングは実質的な「途上国の生活水準向上のターゲット(数値目標)実現にどれくらい貢献しているのか」という数値を出すところまでは言っていないようだ。上記のランキングは「各社のESG活動(「環境に配慮している」「地域に貢献している」など)20項目について」を「投資経験者、ビジネスマン、SDGs認知者、専業主婦、若年層などのステークホルダー1万500人」にアンケート調査して決めたらしい(大学ランキングも一部の項目がまさしくそうなっている)。いわゆる口コミである。おそらく各社の経営企画部などには、「SDGsランキング上げろ」などの指示か上からやってきて、それに対して、優秀な幹部候補社員たちが、SDGsとかに興味を持ちそうな意識高い系の人たちに向けたやってますアピールを、いかに手間とリソースをかけずにする方法を寄ってたかって、真剣に検討したとと思われる。いわゆる「ブルシット・ジョブ」ってやつですな。

そうなると、攻略法もすぐ見つかる。手近にできる取り組みとして、たとえは、SGDsを宣伝することを、SGDsの取り組みとしてカウントしていいらしい。なるほど、SGDsラッピング列車が走ったり、雑誌にSDGsの企業広告がでるのは、そういうことか。

一方、「途上国の生活水準向上のターゲット(数値目標)実現にどれくらい貢献しているのか」という実質的な数値(貧困を??名減らすのに相当。。とかでしょうか、生々しいけど)を出す作業が、これまた極めてめんどくさそうな書類仕事と、変な専門職を大量に生み出すのは、見え見えである。SGDsコンサルタントはもういっぱいあるらしい。あとはSGDs評価基準ISOとかができたら完璧。そもそも数値評価の目的が「ランキングを上げる」「投資を受ける」ことにすり替わっていることから、これまた典型的な「ブルシット・ジョブ」ですな。

本書を読んでSDGsについて学んだのは、SDGsが新たな「ブルシット・ジョブ」を生み出す要件を十分に備えている。ということでありました。

2020年8月30日日曜日

問題発見力を鍛える

 「問題発見力を鍛える 」(細谷功、講談社現代新書)を読んだ。とある偉い先生がある会議で「学部生向けの演習セミナーで<問題発見フレームワーク>を取り上げたら学生の目からうろこが落ちていた。」という話を聞き、それはすばらしいとおもって手近にあった本書をよんでみた。

本書の最も重要な指摘は全体の3/4くらいに出てくる。「他人は多くのものを見落としているので、他人が見えていないものが見えたら」「巷にたくさんある「問題解決フレームワーク」を問題を整理する方法として活用し、その整理結果を複数人で共有するのだ」というあたりであろう。

私の恩師は、野口悠紀雄の「超」整理法などを愛好する自称「整理法マニア」で、いろんな整理法の本が出るたびにいそいそと買い込むものの、特にデスクのあたりが片付いた様子はなく、しばらくすると、いつもの飲み屋で、やっぱだめやね。そろそろ整理法の整理法が欲しいなあ。とおっしゃっていたものである。

私のような不肖の弟子としては、もちろん、「解決すべき本質的な問題とは、簡単には整理、分類、言語化するのが困難なものであり、ある整理法について検討すべきは、その方法がある問題を解決する鮮やかさではなく、問題の解決に失敗する、正しく問題を取り逃がす、取り逃しっぷりであり、そこから真の問題解決に至る糸口を何とかみつけようとする、終わりの見えない問題に取り組む不屈の精神」を見てしまうというよりは、「問題を整理できてしまう(=解決できてしまう)と、整理法マニアとしての趣味が失われてしまうので、そもそも問題の解決って=小さな親切、大きなお世話かもしれないのだから、問題を解決=善とするような、せせこましい問題の設定に対する批判精神」を読み取ってしまうのである。しらんけど。

あと、「問題発見力を鍛える」を読んで問題発見力を鍛えてもらったので、「問題発見力を鍛える」の問題点について考えてみると、本書のようなよくできた「問題発見フレームワーク」で見つかるのは、「問題解決フレームワーク」とかで簡単に解決できそうなしょぼい問題ではなく、解決するのが極めてむつかしい、あるいは、解決できない問題のような気がする。しかし、そのような問題を見つけても(解決できないので)なんの解決にもつながらないのだから、「解決できそうな問題を発見する力を鍛える」方法を指南すべきなのであるが、本書で説明されている「問題発見力」はとても有用なので(ぜひ、読むべし)、「解決できない問題の発見力を鍛え」てしまっているのが本書の最大の問題であるということを発見してみた。本書は、解決できない問題を発見してしまったときに、どうしたらいいのか?それに最後まで付き合い責任を取る覚悟があるのか?という点に関する説明が抜けている。

私の恩師は、通勤途中に読み終わった終わった本をよく、手近な学生にくれたのだが、ミステリ小説が多く、そのなかでも酔いどれ探偵もの(リーバス警部シリーズの血の流れるままに、矢作 俊彦のTHE WRONG GOODBYE ロング・グッドバイ、とか)が多かった。探偵とは「問題発見力」がとても高い人たちである。その中でも酔いどれ探偵とは、「自分が何かを見つけてしまったために、何かを失った」人たちである。殺人事件が起きると、「問題解決フレームワーク」的なやり方で解決が図られるが、探偵はフレームワークが見落とした何かが隠されていることに気づいてしまい、そして、問題が本質的な意味で問題であること、つまり、発見した問題はできたとしても部分的にしか解決しえないこと、部分的な解決をするにしても、関係者、あるいは探偵自身の生活に不可逆的な変化を起こしてしまうこと、を暴いてしまう。もちろん酔いどれ探偵は、「問題にふたをする」という安易な手段は取らず、たいていはかなりイタイ思いをして、部分的な解決まで済ませた後、やれやれといってまた、自分が見落としていたはずの何かを求めて、酒を飲むのである。酔いどれ探偵ものこそ「問題発見力を鍛える」ための生きざまを知る最高かつ楽しいガイドになるのではないか。