2014年11月14日金曜日

雑誌会11/14

 清水研の金曜午前中は雑誌会です。論文内容を紹介する20分のプレゼンのあと、30分間のディスカッションです。毎回2名ずつ担当します。
 今日一人目は西野君(M1)の、Yugi et al. Reconstruction of insulin signal flow from phosphoproteome and metabolome data. Cell Rep. 2014 Aug 21;8(4):1171-83. の紹介でした。
 近年の網羅的解析手法(オミクス解析)の発展により、生体内の代謝物量、タンパク質量、遺伝子発現量などを一斉解析できるようになってきました。実際の解析から得られた大量のデータをごりごりと解析し、そこから新たなシグナル伝達経路や、代謝制御メカニズム、遺伝子の新規機能の発見が期待されています。こういう研究スタイルは10年くらい前はデータ駆動型のシステム生物学などと呼ばれていましたが、最近は複数のオミクスデータを組み合わせる事でトランスオミクス (trans-omics) というのだそうです。
 筆者らは動物培養細胞にインシュリンを投与したときの素早い (60分以内) 代謝変動に着目し、経時的なメタボロームおよびリン酸化プロテオームデータを取得、統合した解析を行いました(この辺がトランスオミクス)。そこからデータベースとの比較からホスホフルクトキナーゼという酵素が、インシュリン投与時特異的にリン酸化されることを見出し、さらには、それがインシュリン受容リン酸化シグナルリレーにつながるとデータベースが予測することを示しました。また、リン酸化によりホスホフルクトキナーゼが活性化する可能性がある事をとても簡潔に実験的に示しました。大量データから単一のリン酸化制御へとナロウダウンする手振りは大変鮮やかである。といえましょう。またその集大成としてこれらの結果をまとめたムービーが作成されております。膨大なトランスオミクスデータから単一の関係にフォーカスされている様子は圧巻であります。オミクス研究では境界的な知識の共有のためWikipediaベースのサイエンスコミュニティーが大活躍することが期待されていますが、トランスオミクス時代において今後発展するであろう動画ベースのサイエンスコミュニティーのさきがけとしてこの動画が指し示している事、いない事の解読および、吟味が求められているかもしれません。
 また、さらには生体の振る舞いの全体像を数理モデルとして記述することを目指すモデル駆動型のシステム生物学というアプローチもあります。本研究でもF1,6BPという代謝物の含量の変化に着目し、膨大なデータをもとにその変動を説明する数理モデルのパラメーター推定に成功しています。このようなモデルは生命現象の本質を簡潔に説明するツールになり得る点ですばらしい成果であるといえます。モデル駆動型の研究の要点は、モデルの振る舞いが実データに「本質的に」似ている事、さらには、推定されたモデルのパラメーターあるいは振る舞いから、理解したい現象の「本質」に近づきうる点です。そのような点について明快に考えさせてくれるという意味でも非常に興味深い研究です。
 二人目は岡橋君(D1)の Castellana et al.Enzyme clustering accelerates processing of intermediates through metabolic channeling. Nature Biotechnology 32(2014), 1011-1018 の紹介です。酵素タンパク質をつなぐと反応効率が良くなるといわれています。この研究では酵素のクラスター化が実際に効果があることを数理モデルで示し、さらに実験的データの説明にも成功している、ようです。質疑応答ではこの数理モデル化がホントに妥当なの?という点を中心に議論が進みました。われわれは酵素が細胞質に単独で浮かんでいるというナイーブな見方をしていますが、一方では酵素が機能単位でメタボロンという複合体を作っているのではないかとの見方もあります。例えば出芽酵母は芳香族アミノ酸の連続5反応分の酵素が1つにつながったARO1pという酵素を持っています。数理モデルに基づく解析からこれらの存在の是非と、意味について新たな知見が得られていくことが期待されます。二人とも発表上手でした。


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