2020年8月17日月曜日

反穀物の人類史

反穀物の人類史(ジェームズ・C・スコット、みすず書房)を読んだ。

ティグリス=ユーフラテス川にいた人類は新石器時代に農耕を発明すると、やったあ!とばかりにそれまでのつらい狩猟採集生活をやめて定住し、そこから初期国家の形成にすすんだ。というのが定説だった。日本の歴史でもどういう筋書きになっている。息子のもっている歴史漫画でも、たぶん朝鮮?からやってきた稲作(水田)技術で社会がガラッと変わり、土地や収穫物の収奪が始まって、クニの形成にいたる。というお話が描かれている。

本書によると、この一見完ぺきのようにみえる筋書きは現在破綻しているらしい。筆者は

・ティグリス=ユーフラテス川の流域は非常に豊かな環境であったため、新石器時代の人類は定住して狩猟採集を行っていた。食料獲得法の一つとして初歩的作物栽培も行っていた。

・しかし、作物栽培と定住が始まってから、国家が生まれるまで4000年もかかった。

という事実に注目する。

われわれは、つらい狩猟採集生活/生産性の高い作物栽培という、現在の観点を敷衍したイメージで物事を解釈してしまうが、これが間違いのもととなっているようだ。日本列島においても5000年くらいの前の陸稲?栽培の痕跡が見つかっており、弥生時代初期に一気に広がったのは水稲生産技術らしい。しかも、

・耕作は食料獲得法として効率が悪かった(手間がかかった)ので、新石器時代の人類には、すすんで耕作に集中するモチベーションがあったとは考えにくい。

・しかしながら、未知の理由により、新石器時代の人類の一部は作物栽培を中心にした生活を選択した。作物栽培を中心にした生活では栄養が偏るため、平均身長は狩猟採集民より低くなった。また、人口が集中すると病気が発生しやすくなるため、初期農業コミュニティーは度々崩壊したようだ。

・4000年かけて動物、植物の遺伝子構造と形態を変える家畜化〈飼い馴らし〉と、非常に人工的な環境への人間自身の〈飼い馴らし〉が進み、最終的には圧倒的な生産性を達成して、国家形成の基盤となった。

・また、われわれは国家とその外部という見方をするが、これも偏っている。初期国家が抑えていたのは農作に適した極めて狭い領域であり、その外部には、多様な人々が生活する広い世界が広がっていた。また、両者は相互の交易無しでは存在できなかった。

やはり興味深いのは、効率の悪い耕作をあえて選ぶ動機である。食料採集のさまざまな選択肢をその時々に応じて工夫する活動的なコミュニティーにおいて、みんなやりたがらない、めんどくさい作物、家畜のお世話&お留守番を、集団として何世代にもわたってすすんで引き受けるのはどういう場合なんだろうか。

おもしろいのは炭水化物ダイエットでよく聞く炭水化物は嗜好品(食べると多幸感があり、大なり小なり依存性がある)説を当てはめるものである。炭水化物欲しさに一心不乱に病気に負けず4000年頑張ったというのは、一理あるが、炭水化物に依存性がある人類が選択されただけかもしれないので、いまいち弱い。

豊かな狩猟採取生活とは、知識と経験をもとに、毎年変化する状況に応じて工夫する高い能力が必要とされるように思える。ベンチャー企業のアイデアマン経営者みたいな感じ。一方、作物栽培は暦にあわせた作業を継続的に実施する能力が求められるが、そういう仕事が好きな人も多い。そこであえて分業を始めたなどのようなつまらん説明しか思いつかない、誰かがゲームの理論とかでさっぱり、説明してくれる日が来るのが楽しみである。


0 件のコメント:

コメントを投稿