「イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」」(安宅和人、英治出版)をオーディブルで聴いた。この手の仕事術本は、お金を払って買う気にはなれないし、図書館で借りても時間を取って読む気にもなれなかったが、オーディブルだと、出退勤中、歩いている間に聞くとちょうどいいことに気づいた。
筆者の安宅氏は、マッキンゼーのコンサルでかつ、脳科学の博士号も持っており、本書が説くコンサルプレゼン資料作成用の仕事術は、論文作成にも完全に当てはまる。
われわれは博士課程の学生にこういう話をする。
「論文って、データを積み上げて書くもんだとおもってない?いろいろ実験積み上げていったらある日突然、驚きの新発見があり、論文になる。みたいな。でも、それだと、卒業まで何年かかるかわからんやん。
そこで、こういう積み上げ式は今後の楽しみに取っておいて、今は、出口から逆算する方式をやってみよか、、
まず、論文で主張するゴール(本書が言うところのイシュー)を決めて、それを検証するストーリーを作り、それに必要なデータを取る実験をデザインするわけ。
論文で主張するゴールの設定は業界でちゃうねん。バイオテクノロジーの場合は「○○を世界で初めて実現した(工学)」か、「○○を世界で初めて明らかにした。(理学)」のどちらかかな。
きみの場合は、すでに××のデータを持っているから、これが、論文のFig. 1とFig. 2かな。それで、この先にあり得るゴールは、一番インパクトの高いA案、つぎのB案、一番手堅いC案の3択くらいやろか。でさあ、まず、、A案で行けた場合のバラ色のストーリーを作って、それに必要なデータをリストアップするねん。Fig. 3、Fig. 4、Fig.5を頭に思い浮かべたらOK。それができたら、A案で行けるかを見極めるための実験を考えよか。
同じことをB案 C案でもするやろ。そうすると、A案 B案 C案のどれでも使うデータがあるやん。それは、無駄にならへんし、明日にでもすぐ実験にとりかかろう。次にA案 B案 C案を見極めるために必要なデータをそろえるための、一番手際のいい実験がデザインできるやん。そしたら◇月の中間報告までには、方針が立って、その半年後にはどの案でも論文に必要なデータが出そろう計算で、これやと、卒業に間に合うんちゃうかな。。」
そのあとこの話はこう続く。
「え?上の3択がどこから出てきたかって?これには、経験がいるねん。「○○を世界で初めて実現しました」という話をして「いいね」マークをもらうには、まず、各業界にあるストーリーのパターンに沿わすのが一番簡単やろ?どんなパターンがあり得るかは、これまで雑誌会とか、学会とかでみた他人の例から勉強して真似するんやね。卒論、修論でも練習したし。
あと、お話には、初期設定とイベントがいるけど、○○を実現する必要性、意味、これまで実現できていなかった限界を超えた試行錯誤の過程、世界で初めて実現したことの証拠となるデータの見せ方なんかの作法にも、各業界でそれぞれ、しきたりがあるねん。まずはそれに従ってみるのが修行としてやるべきことやな。個性を殺せるだけ殺してみるゲームだと思うと結構面白いんだわ。
ストーリーのパターンと各要素の作法がある程度身に着くと、常に、あとはこれとこれがあったら、こういうストーリーができるなっていう、ストーリー構築が常に頭の中で走っている状態になるねん。その中から、一番インパクトが大きいのがA案、確実性が高いのがC案、その中間がB案って感じで、ゴールが設定できるってしくみやろか。」
さらに余計なことまで話は進む。
「あとな、「イシューからはじめよ」はコンサルの後輩に向けて書かれた本なので、あんまし触れられていないけど、このやり方の欠点もあるねん。
まず、A案がベターだけど、それを支えるデータがうまく出ないことはよくあるというか、デフォルト状態やんか。そこで、あきらめきれずに、A案に固執しすぎると、データの捏造が起きる素地になるのは、すぐ想像つくよね。これは絶対にやったらあかん。あるイシューからはじめるのはええんやけど、そのイシューでおわれることはまずないと思っておいたほうがいいかな。とにかくたくさんイシュー=ストーリーを考えて、次から次へと却下していく、という感じかな。
あと、このやり方は、あくまでも仕事を時間内で終わらせるための、小手先のテクニックでしかないってことに気を付けてほしいねん。要領かますってやつやね。真の大発見を、ストーリーに合わないイレギュラーな結果として切り落とすしてしまうやん。そやし、本やブログで自慢するような話でもないと思うけどな。さっさと身に着けてがんがん活用して、時間を作り、後回しにしていた積み上げ式の研究で大発見できたらええな。
最後に、一番大事なのは、一番手堅いハズのC案もあかんかったときやね。こういう時に人の生きざまが出るな。あと、そのうちわかると思うけど、これがデフォルト状態やで。研究の。」
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