2015年4月8日水曜日

ターゲット分析とノンターゲット分析

質量分析装置を用いたメタボローム分析には大きく分けて2つの考え方があります。
ターゲット分析 (targeted analysis) では、まずはじめに分析する対象化合物を決めます。標準化合物などを用いてクロマトグラム上で対象化合物が溶出する時間と質量電荷比 m/z を確認します。実サンプルを分析し、対象化合物のピーク強度を測定します。たくさんの化合物を計測したいときは、分析対象化合物の数を増やせばいいです。上限はありません。本法のいいところは、従来の分析を考え方が全く同じなため、既存のソフトウェアを用いてピークピッキングなどのデータ処理ができる点にあります。一方、本法ではターゲット化合物以外の予期せぬ変化を見逃してしまいます。

ノンターゲットまたはアンターゲット分析 (nontargeted or untargeted analysis) では、事前に測定対象を決めません。いきなり実サンプルを分析します。たくさんのピークが検出されますので、そのすべての強度値を調べます(ピークピッキング)。サンプル間で各ピークのシグナル強度を比較できるようデータを整列化して、データマトリクスを出力します。これでは、各ピークがどの代謝物に由来するかわかりませんので後から、データベース検索を行ってピーク同定を行います。本法のいいところは、サンプル内の代謝物組成の予期せぬ変化を見つけることができる点です。一方、従来の分析法を考え方が逆なため、ピークピッキング、データの整列化を行うための特殊なソフトウェアが必要な点があげられます。

私が2004年ころにノンターゲット分析に着手した頃はピークピッキング、データの整列化を行うためのソフトウェアがほとんどありませんでした。唯一利用できたMSFACTsではうまく処理できず、しかたなく自力でPerl scriptを書いたりしました。まずLCMS (島津LCMS2010)のデータをNetCDF形式に変換した後、バイナリファイルをテキストに変換します。さらにテキストファイルを整数質量値*スキャン番号のマス目に強度値が入ったテーブル形式に変換し、COWToolsというクロマトグラムアライメントソフトウェアで保持時間の補正を行い、補正後のデータを用いてピークピッキング、データの整列化をおこなうスクリプトを書きました。必要はなんとやらというもので、論文に使える仕事ができたのでありますが、素人プログラムの限界も明らかでした。
そこで、2006年からQ-TOFのデータを用いて本格的にノンターゲット分析を実施するに当たり、その頃登場していたフリーのソフトウェアXCMS, Metalign, MZmineを一通り試用しました。そのときの印象として、XCMSはピークの取りこぼしが多い、MZmineは同位体イオンの考慮などのおしゃれ機能があるが、そのせいで取りこぼしが多い、MetalignはFalse positiveも相当多いが、取りこぼしが少ない根性のあるpeak pickerである。というものでした。正解がうまく検出されないよりは、ゴミピークの中に正解が埋もれている方がまだましである。と考え、以降の植物二次代謝産物のノンターゲットメタボローム分析はMetalignを一貫してもちいてきました。が、本当にこの判断が正しかったのかまったく自信はなかったのです。

つづく

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