2015年5月20日水曜日

ノンターゲットメタボローム分析の課題その8 Metabolite featureの強度値の補正方法

 LC-MSをもちいたメタボローム分析では、生クロマトグラムデータ中の代謝物由来のシグナル(Metabolite feature)を網羅的に検出し、その強度値を調べます。この強度値が代謝物濃度の半定量値となるので、正しく定量することが大事です。しかし、Metabolite feature強度値は、①サンプル中の該当代謝物濃度、②サンプルマトリクスからの影響、③イオン化効率、検出器感度の影響を反映しています。なので、LC-UVなどをもちいた定量分析のように、標準化合物溶液で作成した検量線をもちいて、Metabolite featureの強度値からサンプル中の該当代謝物濃度を求めることができるのは、
  1. サンプルマトリクスからの影響が標準化合物溶液、複数サンプル間で一定
  2. イオン化効率、検出器感度が一定の期間変化しない

場合に限られます。
 LC-MSでは、1も2が成り立たないことがわかっています。MSの感度やイオン化効率は、イオン源の状態やMS内部の汚れの影響を受けます。そこで数化合物にターゲットを絞った分析では、安定同位体標識化合物を内部標準としてもちいることでこの問題をクリアしています。一方、メタボローム分析では、すべてのMetabolite featureをカバーする内部標準物質も、非標識の標準化合物溶液を用意できません(未知化合物の標準物質はないですよね)。
 そこで、実サンプルを混合した pooled QCサンプルをもちいるというアイデアが生まれてきました。pooled QCサンプルには、そのスタディで検出されるすべての化合物が含まれるため原理的には、標準化合物溶液の代わりとして用いることができます。
 またメタボローム分析では、サンプル中の該当代謝物濃度の相対濃度がわかればよいです。そこで、pooled QCサンプルを標準化合物溶液とみなした分析を行い、えられたMetabolite featureの強度値から一点検量線を作成し、pooled QCサンプルと実サンプルの中の代謝物濃度の相対値を調べる。という考え方が採用されています。
 さらに、大規模なスタディで必要とされる多検体の分析では、分析期間中にイオン化効率、検出器感度が経時的に変化(低下)してしまいます。つまり、pooled QCサンプルで作成した検量線の寿命が非常に短いため、5-10インジェクションごとにpooled QCサンプルを再分析し、検量線の傾きの変化をモニターし続けるという分析法(以下QC法)につながっています。
 ですが、QC法で完璧というわけでももちろんありません。より大規模な解析では、分析サンプルの前処理とメタボロームデータの取得を並行して実施します。このため、全サンプルを混合したpooled QCサンプルがそもそも作成できない。そこで、1バッチ目の前処理で作成したpooled QCを以降の全分析のQCサンプルとする方法が考えられています。さらに、標準的な均一サンプルを大量に用意し、global QCとして、複数のスタディで共通して利用することも試みられています。
 あと、QC法は、「1サンプルマトリクスからの影響がpooled QCサンプル、実サンプル間で一定である」と仮定してる点には注意が必要です。解決できない問題はそっとしておくのがよいでしょう。以降何回かにわけてQC法の考えかたと課題について議論したいと思います。

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