2015年5月31日日曜日

あなたがどんな人か、よーく、わかったわ

生物の機能、しくみを理解すれば応用できるので理解は大事です。そこで、複雑な生命現象をまとめてシステムとして理解してみようという試みも盛んです。では、どうなれば、「理解できた」といえるのでしょうか?どうも、われわれはなにかを理解するとき、物事を因果関係のあるお話、あるいは物語として理解しているみたいなんです。というより、物語としてお話にできたとき、はじめてなるほどーっと物事を理解したと納得できるんじゃないかと思います。また、物語論の重要な指摘として、「すべての物語には構造がある」というものがあります。善人がいれば悪人がいる。というような非対称な関係性のことです。この物語論の主張も、遺伝子やタンパクの相互作用などのしくみを、矢印を使って構造化したポンチ絵など用いて、ついついお話として説明する習性を持つ研究者には、なかなか論破はできないでしょう。

ウラジーミル・プロップは、『昔話の形態学』(1928)で、ロシアの魔法昔話に現れるモチーフは31個であり、物語の中でほぼ一定の順番で現れる、すなわち物語とはいくつかの紋切り型の集まりであることを示しました。ということは、生命システムがどのようにはたらくか?というお題にたいして、われわれがデータから抽出しうるお話の構造にもそれほどバリエーションはないらしいことを示唆しています。ということは、生物システムの理解とは、生物の複雑でややこしいふるまいを、われわれが理解可能な構造と筋書きへと当てこむ、あるいは要約してお話をつくる作業であると言えるかもしれません。大規模データを解析したことがある方なら、結局われわれは自分たちが読めることしか読めない。という事態に納得していただけるのではないでしょうか?また、京都の女性の「ふーん」という返事に込められた1000通り以上の解釈可能性に魅惑されたことのある方なら、結局われわれはデータについて語ることで、自分自身について語っているのだという文芸評論的なロマンチックな主張にも、ひょっとしたらそうかもねーとうなずいていただけることでしょう。大規模データの解析には、まず、お話を要約するスキルが重要みたいです。さらに、お話の、とくに隠された事実をわれわれはどのように見逃すのか、という点を取り扱った探偵小説も参考になるのでしょう。

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