2015年6月11日木曜日

ノンターゲットメタボローム分析の課題その10 QC法で正確に補正できるMetabolite featureの範囲

 LCMSを用いたノンターゲット型のメタボローム分析で大規模な解析を行なうには、検出した代謝物シグナルの強度値を補正する必要があります。そこで、
・尿の分析なら代表的な尿サンプルを標準物質混合液とみなす(QCサンプル)。
・QCサンプルの分析結果を外部検量線として、QCサンプルに対する強度比として代謝物濃度を測定する。
・QCサンプルで作成した検量線の寿命は数時間である。検量線を数時間おきに引き直し、さらにその経時変化も加味する。
という手法が編み出されました。
 QC法で正確に補正可能なMetabolite featureとは、全サンプルから比較的高強度に検出されるMetabolite featureです。多検体の分析をおこなうと質量分析装置の検出感度が低下するため、Metabolite featureの強度値も経時的に減少してしまいます。そこで、QCサンプルの強度値情報を用いて、実サンプルの強度値も補正するわけです。QCサンプルを6-12回に1回分析し、QCサンプルの強度値情報の経時変化から、LOESS補間法などで検量線の基準線を作成します。この線を基準として、実サンプルの強度補正を行う手法が提案されています(Nature protocol(2011) 6, 1060など)。実サンプルの分析にQCサンプルを挟む頻度などのランオーダーを標準化することで、データ処理の効率、精度が向上すると期待されます。
 しかし、この方法はかなり強い補正をかけるので、明らかな問題点もあります。もし、実サンプルのMetabolite featureの強度値が検出限界ぎりぎりな場合、分析が進むと感度が下がって、下限値に到達するでしょう。以降は欠損値としてノイズレベルが強度値と見なされることになります。そこで、QCサンプルで実サンプルの強度値を補正すると、補正に起因するゆがみが生じてしまいます。このゆがみはデータ解析に悪影響を与えます(そういうトホホな実例なら任せてください。[例]シロイヌナズナメタボロームデータをもちいてMetabolite feature間のスピアマンの順位相関係数を計算したところ、多数のMetabolite feature間に明確なクラスターが観察された。これは、強度値補正に起因するゆがみの結果生じた擬陽性の相関だった。)。とくに、ノンパラメトリックな解析(順位相関など)に深刻な影響を及ぼすようです。メタボロームデータ中のMetabolite featureは強度値が検出限界に近い場合が多いと予想されます。QC法による補正はゆがみの原因にもなり得るんだと言う点には注意が必要でしょう。


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