2015年6月15日月曜日

ノンターゲットメタボローム分析の課題その12 QC法以外の補正法の検討

 LCMSを用いたノンターゲット型のメタボローム分析で、大規模な解析を行なうには、強度値を補正する手法が必要です。QC法はもっとも有力な方法として期待されます。pooled QCサンプルの作成するときに、全サンプルの1-2%程度以下のサンプルにのみ含まれるレアな代謝物は大希釈されるので、QCサンプルから検出できなくなってしまう可能性があります。このように、QC法は完璧ではありません。
 QC法では補正できないMetabolite featureを扱う他の方法が必要になるでしょう。2006年に作成した分析法(Matsuda et al. Plant J (2009)57, 555-577)では、イオン化効率、検出器感度の変化を追跡するための内部標準物質の設定に取り組みました。種々の安価、安定な非天然物から、実サンプルに添加してもサンプルマトリクスからの影響(イオンサプレッション)を受けにくいものを探索しました。その結果、d-カンファースルホン酸とリドカインを強度値補正用内部標準物質として有用なことを見いだしました。メタボロームデータ中の、強度値補正用内部標準物質の強度値にはイオンサプレッションの影響はない。と期待できます。そこで、全Metabolite featureの強度値を同一分析(インジェクション)の内部標準物質の強度値で除算するという補正を行いました。本法でもある程度補正がかけられることがわかっています。
 QC法ではイオン化効率、検出器感度の経時変化をMetabolite feature毎にそれぞれ補正することができる点が長所です。したがって、イオン化まわりのパラメータを途中変更しても、質量分析装置に個体差があっても、さらには質量分析装置の機種が異なっても、直近に取得したQCデータから、強度値を正しく補正できると考えられます。一方、内部標準物質法は全Metabolite featureのイオン化効率、検出器感度は、強度値補正用内部標準物質と同様に変化するという仮定に基づいています。しかし、イオン源の雰囲気、イオン化まわりのパラメータの変化や、装置の汚れ具合がイオン化効率、検出器感度に及ぼす影響は化合物ごとにばらばらになると考えられます。実際、本法よりQC法のほうがよい補正結果となることも判明しています(Front Genet. 2015;5:471)。つまり、本法は、QC法が適用できないときのバックアップとして位置づけるべきだろう。また、全スタディを比較する基準としていろいろ役立ちそうなので、検出器感度補正用内部標準物質の種類および濃度を、全研究室で標準化し、全サンプルに添加するとよいと思われます。

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