2015年6月12日金曜日

清水研雑誌会6/12

今日の雑誌会の一人目はD1和田君のデビュー戦です。紹介した論文は Fu et al. Metabolic flux analysis of Escherichia coli MG1655 under octanoic acid (C8) stress. AMB 2015, 99:4397-408です。再生可能資源からバイオ生産したい化合物の中には、その生産宿主(微生物)にとって毒になるものも多いです。たとえばエタノールは消毒につかわれる溶剤ですので、普通の微生物は培地に数%のエタノールがふくまれると生育できません。酵母がエタノールに強いという性質をうまく使ってお酒をつくっています。この研究ではオクタン酸 (C8の直鎖カルボン酸) によって生育が阻害されている大腸菌の代謝で何が起きているのかを代謝フラックス解析によって調べたという論文です。その結果TCAサイクルの代謝フラックスが38%減少していること、NADHの再生量が25%減少していることを突き止めました。このように細胞内代謝経路の活性をダイレクトに調べることができる点が代謝フラックス解析の強力な点です。そこから細胞内の酸化還元バランスや、エネルギー状態についても議論できます。これは他の手法(遺伝子発現、代謝物蓄積量の計測)からはなかなか得ることのできない情報で、代謝について本質的な理解を行なう上でのファイナルアンサー、あるいは鍵となる技術です。清水研ではこの代謝フラックス解析の技術開発を行なっており、和田君もこの春から清水研に加入して代謝フラックス解析研究をがんばっています。代謝フラックス解析の専門家集団らしく、本論文についてもフラックス解析法の詳細について活発な議論が行なわれました。
二人目は清水研の若頭D2岡橋君で、 Webb et al. Structures of human phosphofructokinase-1 and atomic basis of cancer-associated mutations. Nature 2015, doi:10.1038/nature14405  です。われわれは、代謝の流れや代謝物の蓄積量が代謝機能とどのように関連しているのかに関心を持っていますが、代謝反応の触媒を担うのは酵素タンパクであり、その機能はタンパクの高次構造とつよく関連しています。ホスホフルクトキナーゼ (PFK)は解糖系の上流の制御を担う重要な酵素です。また、がん化した細胞ではPFKをコードする遺伝子に共通の変異があることがしられており、がんとの関連という観点からも興味深い酵素です。本研究ではヒトPFKの4量体の結晶構造を解き、構造とがん化にかかわる変異との関連について議論しています。代謝を理解するには、代謝を眺めるときの範囲を、全代謝反応レベルで広く見たり、1タンパク、1遺伝子レベルまで狭くみたり視野を自在に拡大縮小することが大事だと改めて感じさせてくれたイイ発表でした。

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